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2010.9.9 【経】
Novel stage / original:Two Little Stars
《しゅうじ》
「にゃにゃ……」
「んにゃ……」
ネコの仔達が机に向かって唸っている。それぞれの手に細い筆が握られていて、前には通常より横に長い半紙。
双子は時折硯にあるしっかり磨られた墨を筆先につけて、真剣な目で半紙に一文字一文字書いていく。
書いている文章は速度の差はあれど半紙の下に敷かれた見本にある同じ文章。
観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空……
ネコの仔達には漢字はほとんど読めていないが、投げることなく真面目に写経へ取り組んでいる。
なにしろ。
「……流石にこれは卑怯じゃないですか、先生」
ステラとアンテールがいる部屋と障子一枚隔てて隣にある食堂では、博と美優が醤油味の固焼きせんべいをお茶請けに冷えた麦茶を飲んでいた。
女性の目線の先には冷蔵庫。中には彼女が持ってきたネコの仔達へのお土産が入っている。
しかし、青年は目もくれず麦茶を喉へ流し込んだ。
「これくらいしないと、あいつら字を書こうとしないので。絵本を読むのは好きなんですけどね」
だから放っておいていいですよ、と言うと手元のメモパッドにボールペンを走らせている。急ぎの原稿はもう美優が受け取っているため、次に向けて思考の断片を記録しているようだ。
普段は常識から外れない限りあまり双子に口を出さない博が、唯一積極的に働きかけるのが所謂勉強事。
ネコに戸籍などあるわけもなく、また例え外見相応の学校に入った所で追いつけるわけもない。ネコのクローンが売買される目的は愛玩用。動物としてしか扱われないのが普通だ。
そして、その方が幸せなのだろうという意見もある。
なまじ人の姿をしているだけに情をかけたとして、全てを理解した彼らが受ける扱いも時に非情な飼い主による恥辱もかわりはしないのだ。
ならば、いっそ。
何も知らないままの方が、しあわせだろう、と。
双子を拾ってからネコについて調べた博がこの事実を知らないわけがない。それでも、こうして学ばせるのは。
(ちびちゃん達を解放するするつもりなんでしょうね……)
最初はやっかいなものを拾ったとしか言ってなかったくせに、いざとなると本気になる性質。
「ヒロシ、出来たのにゃ!」
「あと乾かすだけなのにゃ!」
「そうか、よくやったな。今出してやるから座ってろ」
そんな気配などつゆも見せず、きちんと筆を置いて飛び込んできた双子へご褒美を冷蔵庫から出してやるのだ。
「……でもネコとしていいんでしょうか、あれ」
「……まあ、ネコのクローンは人間の味覚に近いこともあるらしいので、いいんじゃないですかね」
大きなプリンにご満悦な双子を見た大人達はそっと溜息をついた。
Fine.