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2010.9.6 【毒】
Novel stage / original:Abyss of Time
《終焉が訪れる前のいくつかの出会い 3》
イレイサー退治の任務が終わった深夜。僕は研究所への道筋を辿っていた。
ここはまだ街中に近いため、原色のネオンがきらめく大通りにはまだ多くの人が歩いている。
楽しげな表情、疲れた表情。酔って真っ赤に染まった顔、パフォーマンスが成功して得意げな顔。
昼間とはまた違う沢山の一面が夜の街には溢れていた。
紫さんは早く帰ってくるようにといっていたけれど、夜に出かけることは少ないのでこの光景が新鮮に見える僕はついつい足取りがゆっくりになる。
黒い空に映える地上の紅い星をゆっくり眺めていると。
「そこの少年」
左側から声をかけられた。
少し前にいる人は背の高い女性。腰まで届く真っ直ぐな金髪。すらりとした細い肢体にスーツを纏う姿は三十前後に見える。
「手が空いていれば手伝ってくれないかしら?」
女性が立っているのはこの時間でもまだ空いている珍しい花屋。側には大きな花束を抱えた店員が困った顔をして立っていた。
「なんでしょうか」
僕は応じる。もう少しこの夜の街を歩いてみたかったのだ。
「タクシーを拾える通りまで花束を運んで欲しいの。ちょっと私が運ぶには大きすぎたみたい」
店員さんが抱えている白い紙に赤いリボンの花束は確かに大きい。女性が抱えることは不可能ではないかもしれないが、スーツが汚れてしまいそうだ。
「構いません」
恐縮する店員から僕は花束を受け取る。店の中を覗くともう片付けに入っている途中で、他に店員がいないから出られないのだろう。
腕を上手く調節して中の花を安定させる。重心が取れずになかなか難しいが、少し動かしてやるとなんとか収まった。
そして僕の様子を見ていた女の人に言う。
「どこの通りへ出るのか教えていただけますか」
「安心して。先導するわ」
ふふふ、と微笑む。紅い唇が弧を描くと顔全体の彫刻家が刻んだような構図が崩れ、人間らしさが生まれる。
「わかりました」
振り返って歩き出した女性の背を追って歩き出す。
一歩進む毎、左右に揺れる金髪。
その姿が、何故か見覚えある気がする。
姿だけではない。聞こえてくる声、仕草、どこかで見たことがある気がする。会っていれば覚えているはずなのに。
違和感を拭えないまま、僕は女性の後をついていった。通りすがりの男性達が女性を見て止まり、目尻を下げたり、鼻の下を伸ばしたりしている。時折声をかける人もいるが、一言二言返されただけですごすごと引き下がった。中にはがたがた震えている人もいたのだが、一体何を言ったのだろう。
そんな人間観察を続けながら歩いていく。
道路を三本ほど渡ると、居酒屋の沢山ある通りへ出た。みれば飲み会帰りの人を期待したタクシーが何台か道路に止まっている。
「ありがとう。ここまででいいわ」
女性はオフホワイトのスーツに包まれた腕を上げる。気がついたタクシーが早速動いて僕達の近くの道路へ移動する。
開いたドアに早速女性が乗り込み、その腕へ僕は花束を渡した。
上からみると花束の中は赤く細い花弁が幾重にも広がる丸い花。
「ああ、この花? 彼岸花よ」
僕の視線に気付いた女性が教えてくれた。
「彼岸花」
「リコリスとも言うわね。綺麗な赤でしょう?」
「綺麗、ですけど……」
僕は花を見て感じたことを正直に言った。
「少し、怖いです」
「あら」
答えを聞いた女性は一瞬きょとん、としてくすくすと笑い始める。
「よくわかったわね。花ではないけれど、リコリスにはアルカロイド系の毒があるの……ふふ、流石ね」
「え?」
まるで僕を知っているような口振りに聞き返そうとしたが、その前にドアは閉まってしまった。まさか気になるというだけで車のドアをこじ開けるわけには行かない。
ばいばい、と手を振る女性をただ見送るしかなくて立ち尽くしているうちに、漸く思い出した。
「あの人、心さんに似てる……」
Fine.