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2010.9.8 【地】
Novel stage / original:Willwart
《30,000m》
ウィルワートの人々が憩う中央の公園。
小さな子供達が遊ぶ午前中が過ぎ、強い日差しが刺す午睡の時間は暑さのせいで休憩している人は多くない。いる人もほとんどが緑の影でうとうとしている。
そんな中で、明らかに涼しそうな木がかたまって生えている木陰には誰も近付いていなかった。いや、正確には今近付いている人影以外は近寄ろうとしなかった。
あからさまに人避けが施されている場所へ歩いていくのは紺の長いコートを纏った黒翼族の青年。
無造作に木々の中へ入り、しゃがみこむと足下に埋め込まれた半球の表面に触れる。
そして、ウィルワートの民が聞いてもそのほとんどにはわからない言葉を口の中で呟いた。
微かな音へ応える様に半球はほんのりと光を放ち始める。
柔らかな木漏れ日のような黄色い光は低い韻律に従って少しずつ膨らんでいき、球状に広がった輝きが完全に青年を包んだ瞬間。
ぱん、と小さな音を立てて、輝きは消失した。
内側に包んでいた青年の姿と、共に。
慣れた浮遊感に包まれながら、青年は強烈に下へ引かれる力を感じていた。
黒い翼を広げて飛んでいた時には感じなかったこの力。ウィルワートで飛ぶときに働いていれば、飛ぶどころか身体を浮かせることすら儘ならなかっただろう。
黄色の円形の薄い膜を纏いながらただただ落ちていく。
丸い雲を、薄い雲を、何層も突き抜けていくうちに、やがて眼下には空の青よりも緑や茶色そしてより濃い青色が増えていった。
「あれが、地上……」
ダークブラウンの瞳が初めての光景を映す。
その表情はまるで新しい玩具を見つけた子供のように好奇心と期待に満ち溢れている。
段々と大地に近付いていくと下へとひきつける力が次第に弱くなり、森の中へ降り立つ頃には空中都市にいるときと同程度の力しか感じなくなっていた。
木々の間に紛れ込む高さになったところで彼はそっと背中の黒い羽を広げる。大きな蝙蝠のような黒が広がると、大地からの空気を受けて落下スピードが緩まる。
とん、とブーツが大地の土を踏みしめた。大きく深呼吸。
「……空気が違う」
立って深呼吸、それだけのことで非常に満足した表情になった青年は何事かを呟く。
すると、未だに纏っていた黄色の膜がすぅっと空気に溶けて消える。
青年の姿は変わらない。その背にあった大きな黒い羽が見えないことを除けば。
「さて、行くか」
誰もいない空間に呟くと彼、ギルフォードは歩きだした。憧れの大地の上を。
Fine.