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2010.9.10 【入】
Novel stage / original:Feast of Dolls
《探偵入門》
確かに私は探偵としての勉強がしたいといった。
確かにバイトをしていてペット探しの依頼は多かった。
確かにこれならなんとかなるかもって思っていた私もいた。
確かにあの人は「難しいわよ」と笑っていた。
だからといって夜になっても終わらないなんて思わなかった。
「わ、わんちゃんどこ……」
枯れかけた喉で呼びかける少女がすっかり暗くなった植物園の花壇のレンガにしゃがみこんでいた。着ている制服は枝に引っかかったりしゃがんでいたせいで、すっかり汚れて葉っぱや蜘蛛の巣が絡まってしまっている。
星明りに照らされた少女の顔もまた土の筋がついて深く疲労の影が刻まれていた。
しかし、浮かぶ表情には諦めの色はなかった。むしろ強い意志によってぎらついてさえいる。
「……っ。ぜったい、見つけてみせるんだから」
ふらつく足で立ち上がり、少女は闇の植物園を歩き出す。
所長の飼い犬を見つける為に。
少女は最近あまりにもやることがなくて、一人忙しそうにしている所長に掛け合った。
探偵の勉強がしたい、と。
一瞬、きょとん、とした所長はレースで飾られたオレンジ色のワンピースの袖を口に当ててころころ笑う。
「仕事がなくて文句を言う従業員も珍しいわね」
応えると、机の下に向けてひとつ頷く。
のっそりと動き出す影。所長の影につかず離れず従う濃い赤毛の大型犬は机の下、陽のささない暗がりが好きで定位置となっている。
少女がこの事務所に来た時からずっといる犬だが、所長が紹介したことはない。ただ、普段はアスと呼ばれている。
「アス、隠れていらっしゃい」
笑みを湛えたまま発した言葉に焔色の犬はのっそりと、ではなく、姿を捉えられないほどのスピードで事務所から出て行っていた。気がついたときにはもう影すら見えない。
「さあ、私からのお願い。アスを探してきてちょうだい」
「は、はあ……」
少女は呆然とどうやって開けられたのかわからない事務所の扉を見ながら、慌てて荷物をソファへと降ろし駆け出した。
それから、六時間。現在の宵闇に至る。
ふらふらと木々の間を歩いていく少女を後ろから眺めるのは漆黒の中でも色を失わない焔色。
隣には微かな明かりすらも反射する金色のポニーテールが揺れている。
「……ふふ。アス、そろそろ見つかってあげてもいいわよ」
くぅん、と一声鳴いて動き出す赤い姿。
昼間の太陽のような明るい姿とはうってかわって闇に溶け込む黒ずくめの所長がルージュの三日月を描いた。
Fine.