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2010.9.15 【低】
Novel stage / Fun Fiction:QMADS2
《きになる》 Kronica*Yu?
その日、ユウはどこか様子がおかしかった。
「なんだか、朝からぼんやりしているな」
「ああ。あまり授業にも身が入っていないようで、先生の雷を落とされていた」
ちなみにこの場合の雷は本当に魔法の雷でおしおきをくらっていたと言う意味だ。
たまたま購買部で行き会った黒髪の双子は、互いに気付いた少年の異変を伝え顔を見合わせた。
彼は自分の境遇を重ねたせいか仲違いしていた双子の間を繋ぐのに奔走し、今でも双方と仲が良い。それが時折溜息をつきながらぼうっとしていたは気にもなる。
それに。
「空とかではなく、私達を見ていたような……」
「カイルやルキアを見ていた時もあったな」
ぼうっとしているときの大半は誰かを見ているのだ。
これが一人なら恋煩いかとも思うが、その時々で違う。対象は今のところ男女問わず彼と交流のある生徒であることが多い。
「何か悩み事だろうか」
ライラが心配の色を滲ませる。
「……相談に乗れればいいのだが」
そう言ってふと泳がせた視線の先に、話題の主が現れた。
双子は思わず口を噤んで様子を見守る。
購買部に入ってきて、品物を見ているところまでは普段と変わりない。カウンターにいるリデルへいくつか質問をしながら参考書などを注文していく。
様子が変わったのはその後。
「毎度ありがとうございまーす」
代金を受け取った彼女が棚から商品をおろす。上にあった魔法書へ手を伸ばすと爪先立ちでぎりぎり取って、袋に包む。
「はい、品物です」
リデルが笑顔で袋を差し出す。しかしユウはぼうっと彼女を見たまま。日中に何度も見られたどこかに意識が飛んでいる表情だ。
「ユウさん?」
「ご、ごめんっ。ぼーっとしてた!」
まったく動きを見せない様子にへ再び声をかけると慌てて手を伸ばす。
しかし一瞬早く横合いから手が伸びて荷物を受け取った。
「あ、クロニカさん」
「ニカくん」
重なった驚きの声を気にすることなく、クロニカは軽く手を上げるともう片方の手でユウの肩を押して振り返らせる。
「少し調子が悪いようだ」
同時に割って入ったライラがリデルへそう言うと、心配そうな顔をしたものの不思議に思うことはなかったようだ。
ぼんやりした様子から見ても信憑性があったのだろう。
「そうなんですか。体調には気をつけてくださいね」
「え、うん……」
違う、と言う前にユウは姉とアイコンタクトを交わしたクロニカに購買部の外へと押し出される。
あとにはリデルに商品を勧められたライラが断るに断れなくなっていた。
「熱はないみたいだな」
「ほ、本当に平気だから……」
連れ出されたのはアカデミーの反対側から出た中庭。
疎らな人影が見える中で、ユウは植え込みのレンガに座っていた。隣では真面目な顔をした黒髪の少年が十数センチメートル低い少年の額に手を当てている。
荷物は既にユウが抱え、連れてこられた意味もわからずにここへ誘った当人を見上げていた。
「どうしたのいきなり?」
「……それは俺が聞きたい」
しばしの躊躇の後、クロニカは真っ直ぐに疑問を叩き付けた。
「今朝から様子が変だ。ずっと意識がどこかに行っていた」
「それは……うん」
ユウにも自覚がなかったわけではない。ノートが取りきれていない科目もあったし、成績も悪かった。
そのことを感じ取ったクロニカは額に当てていた手を荷物を抱えている手に重ねた。
「悩みがあるなら、相談して欲しい……聞くことしか出来ないかもしれないが、それで気が晴れることもある」
「そ、そんな」
真剣に悩みを聞いてくれようとしている友人に、ユウは頬を染めながら俯いた。
「そんな、大げさなことじゃないんだけど……」
「それならなおさら話してみないか?」
「うん……」
赤い目線の先で酷く畏まった様子の少年がぽつぽつと話し始める。小声だったり遠回しな言い方をしていたりとなかなか要領をえなかったが、要するに。
「……背が低いことを気にしていたのか」
「う、うん……」
まさかこんな大事として心配されるとは思わなかったのだろう。ユウはただでさえ小さな身体を更に小さく縮めた。
言われてみればぼんやりしていたときに見ていたのは彼よりも背の高い生徒ばかり。とはいうものの、飛び級で入っているユウの場合は彼より背の低い生徒の方が少ない。
「取れないものがあったり、昔の写真とか見ると、あんまり伸びてないなって思って……お姉ちゃんは成長すれば勝手に伸びるって言うけど」
それでも、ちょっと悔しい。
ユウはそう呟いた。
確かにさっきの買物の中には、良くアロエが飲んでいる背を伸ばすものとして真っ先に手を出す飲料が入っていた。
かわいい悩みだが男子としては気になる点で気になる年頃でもある。特に兄や姉がいる場合はなおさらだ。
クロニカは頭に手を乗せようとしてやめる。そして再び荷物に添えられた手を握った。
「大丈夫だ、と簡単に安心させることは出来ない。だが、俺もかつてはライラと同じくらいしかなかった。焦らず時に任せるしかない」
「そう、だったの?」
今、ライラとクロニカは二十センチ程の差がある。ユウはライラよりも数センチ低いので、それ以上の伸びを見せたことになる。
「ああ。信じてみるだけの価値はあるだろう」
「……うん」
漸く顔を上げたユウが、小さく頷いた。照れた色を帯びる頬は大分赤みが抜けてきている。
「ありがとう、ニカくん。とっても気が楽になったよ」
クロニカの握った手が両手で包まれ笑顔が返される。
その手があまりに暖かくて、その表情があまりにも嬉しそうで、黒髪の少年は言おうと思っていた言葉を飲み込んで同じように笑みを返した。
「……ああ」
『そのままでも、俺は好きだが』
言えなかった言葉は離れた後、脳裏に蘇る。
Fine.