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2010.9.19 【空】
Novel stage / original:Willwart
《帰る空》
一ヶ月。
姿をまったく見せなかったギルフォードが唐突にパールの家を訪れた。
「……久しぶり、だな」
「ギルくん!」
扉を開けた白翼族の少女は顔を見るなり青年へ抱きついた。初めて会ってから一日とあけずに見ていたはずの顔がないということは、彼女にとって相当寂しさを与える原因となっていたのだ。
そして受け止める黒翼族の青年もまた、普段なら恥ずかしさで直に振り解いていただろうに今日は大人しくされるがままになっている。
「ギルくん、どうしたの? おしごとだったの?」
ぎゅっと抱きつきながら尋ねる少女がギルフォードを見上げる。彼は疲れによるものだろうか、非常に精彩を欠いていた。
「まあ、そんなものだ」
「そっか……じゃあ、しかたないね」
言いながら、少女は一度ぎゅっと強く抱きしめてから名残惜しそうに手を離した。
「……どうした?」
くっつくとなかなか離れない少女があっさり離れたことに青年は不思議そうな声を上げる。
少女は寂しそうに微笑んで答える。
「だって、ギルくんつかれてるから。おやすみのじゃましちゃわるいもの」
彼女は両親も兄も働いているだけに、疲れている人の邪魔はしてはいけないというのを自然に悟ってしまっている。だからこそ無理はさせたくないという思いが再会して嬉しいという喜びを押さえ込んでいる。
すると。
「……それなら、ソファを借りていいか」
「え?」
ギルフォードの意外な提案にパールは目を丸くした。
「休む場所を借りたい。そして少し付き合ってくれないか、パール」
少女の気遣いを無視しない最大限の譲歩。ここまで行くと流石に少々照れるのか、青年は目線を合わせられなくなっていた。
「……うん!」
けれど、最初のように嬉しさが溢れる満開の笑顔としがみついてくる快い重みにそっと金色の頭を撫でた。
「ただいま……おっと」
空から自宅へ降り立った白翼族の青年は咄嗟に口を噤んだ。居間のソファで友人と妹が叩き起こしても起きない程、ぐっすりと眠っている。
最初は二人をしっかりくるんでいたであろう毛布は絨毯の上に渦を巻いて落ちていた。
「人の家で何やってるんだ」
小さく呟いた青年は、溜息をつきながら毛布を掛けなおしてやった。本来なら叩き起こしているところだが、妹があまりに幸せそうな寝顔を見せていて起こすに忍びなかったのだ。
そしてもうひとつ。
起きている時は上手く隠れていただろう黒翼族の青年の頬に残る一筋の傷。
もっともパールなら見つけてもすぐに誤魔化せただろう。けれど、アレックスやフォレスターには決して誤魔化せない傷。
武器を使うものとして、医術を修めるものとして。
「矢傷、か」
この天空の世界で戦いなど風化した歴史ほどに遠い。例えあったとしても戦い手でないギルフォードが傷ついているのに、騎士であるアレックスが関係ないなどということはありえない。
「……気をつけろよ。頼むから」
俺に、お前を捕まえさせるな。
最後の言葉は心に秘めて、アレックスはそっと部屋を出た。
Fine.