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2010.9.24 【白】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《希望のひとかけら》
「ほほほ。これでまずは一匹」
「単純よのぅ。まあ気付いただけでもよしとしてやろうぞ」
片やホールの入口、片や玉座の上に。蝿の女王の高笑いが人間のロードを前後から揺さ振る。
玉座の上に浮くロードの前では、錫杖から放たれた光の矢に貫かれた暗殺者の少女が赤い血で染まった白い肌ごとアルカナの光の煌きとなって消えていくところだった。
はっきり判るほど顔色の青ざめた猿田彦をオークの老司祭が女王から遠ざけ、錫杖を構えたベルゼバブと黒翼の剣士が対峙する。
「もう一体いたのか?」
「いえ、気配はまったく同じです!」
ルヴニールの援護に回ろうとしたヒルダへシャーマンが告げる。いくら外見が似ている同種の魔物であっても、ロードの証であるアルカナの力まで偽ることは出来ない。紅の秘石はそう簡単に複製できるものではないのだ。
「ふふ、お主にはわかるかの?」
ホールの入口にいる蝿の女王が鍔迫り合いとなっている青年へ問いかける。完全に紅い、怒りの光が点った青年はどうでもよさそうに呟く。
「分裂」
宣言すると同時に敵の杖から迸る白い光の刃を右に飛んで避け、空いた脇へと切り込んだ。背で細かく震える翅が数枚切り裂かれたが、まだ浮力は失われていない。
更に刀が闇の強い力を帯びると、先程蝿の女王を消滅させた衝撃が叩きつけられる。
「おぉ。痛い、痛い」
赤の三日月が笑いながら苦痛を訴える。
身体の大半をこそぎ取られ、再び塵へと戻りながらも浮かぶのは笑みだけ。
その笑みが青年の言葉を証明したかのように、塵は舞い上がるといくつかの黒い塊を生じる。無論大きさは小さくなっていて、注意深く見てみると今玉座の上に出現しているベルゼバブは最初に現れたときよりも一回り小さい。
「アルカナの力と言うものはこんなことまでなしうるというのか……」
仇を討ち損ねた神族が悔しそうに唇を噛む。
その眼前では玉座ごとカイムとバーサーカーによって切り裂かれた蝿の女王がやはり笑みを浮かべたまま塵へと返りつつあった。
「ならば、それすら残らなければっ!」
猿田彦の後ろに控えるシャーマンの少女が杖を振るうと雷が宙空から迸る。
細かな欠片が雷によって焦がされるがあくまで荒い一撃では完全消滅には至らない。
「ほほほ……どこまで試してみるかの?」
既に形を取り始めた女王の声が響く。
「二回で駄目なら三回、四回……そなたらはそう思っておるじゃろう。試してみるがよい、そして果てのなさに絶望するがよいわ!」
玉座上にある黒い塵も二つの形を取り始め、重なる笑い声が四つへと増えた。
「何も消費せずに分裂など容易く出来ることではないが、のぅ」
オークオラクルの思案がぽつりと零れる。分裂・再生の仕掛けもわからないまま、敵陣営のど真ん中で戦うのは不利以外の何者でもない。
けれど、彼らはこのまま引く訳には行かなかった。
刃の収める気配のない人間のロードを、置いていくわけにはいかない。また置いていけばそれはそれで敗北を意味する。
ルヴニールの紅い瞳はただ黒い塊を、蝿の女王だけを捉えていた。
断罪の天使は感じていた。
今、己が抱えている記憶が故に周囲の闇、ロードの心の闇が深く深く塗り替えられていっていることを。
そしてもうひとつ。
暗殺者の少女が光の矢を受け、輝きと化したのと同時に、この世界に誰かの意思が微かに生じたことを。
もしも彼女の想像が当っていたとしたら。
天使は呼びかける。その白い翼で己を守りながら、心の主へ向かって。
『私を……呼びなさい』
To be continued...