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2010.9.22 【北】
Novel stage / original:Feast of Dolls
《Deaths》
地球上の北の端。大地のない巨大な氷の塊である北極。
オーロラの輝く藍色の空にメイグリーンのドレスを着た人影がふわふわと飛んでいる。ロケットや飛行装備の類をしているわけでもないのに、蝶の如く優雅に舞う小さな姿は誰の目に止まることなく揺らめいている輝きの中へと消えた。
北の極。極光の輝きは招待状。
人ならぬもの達の中でも特に力を持った者達が集う集会場への。
何処とも知れない古ぼけてはいるが大きな湖の上に立つ闇に包まれた城。
「やあ。我らがお嬢様は今日も大変若々しい」
鈍く光る金色のゲートで出迎えたのは道化師を模った銀のヴェネチアンマスクを被った人物だった。白い手袋に包まれた手が少女の手を取ろうとし、ぱちん、と弾かれた。
いつの間につけたのか羽根が蝶のように広がる仮面をつけた少女は、自身の二倍近い身長の男性を見上げてにっこり微笑む。
「マスカレイドの間は相手が誰か言わないのが決まり事よ」
「お、お嬢さん……」
手を伸ばす男性を置いてすたすたと歩く少女は顔だけ半分振り返ると、くす、と笑う。
「ホールでまた、お逢いしましょう。ピエロの紳士さん」
そのそっけない態度に怒るかと思いきや、彼は平然と見送った。
つれない様子もいつものことながら、知っているのだ。日頃付き合いの悪い彼女がこの集まりにだけは顔を出す理由。
彼女が会いたがっている人物を。
少女が進んでいくワインレッドの絨毯が続く先は人々の集まる大広間ではなく城の奥。
暫くして見えたのは美しく装飾の彫られた木の扉だった。
少女が近付くと、人影もないのに扉はあっさりと開く。しかし彼女はまったく気にせず歩を進める。
そこはこの広い城にしては小さな部屋。
暖炉が赤々と燃える側にひとつのロッキングチェア。あとは小さな棚が申し訳程度に置いてある。
「こんばんは。お邪魔するわ」
少女が声をかけたのはチェアに座っている部屋の中の人物。他には誰もいないが、二十代後半と思われる青年は仮面もつけずに目を閉じてゆっくり椅子を揺らしている。
「……おや、懐かしい声だ」
ぽつり、とその唇が動いた。低音のバスは非常に心地よい響きを持っている。
「涼やかでかわいらしい、冬のような冷たさと春のような優しさを併せ持つ響き……"死の女神"、かな」
流れるように紡がれる言葉が途切れると、青年が微かに笑う。相変わらず目は開いていないが頭はきちんと少女の方を向いている。
「嬉しい評価をありがとう。元気そうで何よりだわ、"語り部"」
「君が来てくれるからこそ、集まりを開く甲斐があるというものだよ」
青年はもうひとつのロッキングチェアを掌で示す。丁度暖炉を挟んで向かい合わせになる位置だ。
少女はふわふわとしたドレスの裾を上手く捌いて腰掛ける。動作の軽さを物語るかのように椅子はまったく動かない。
「私も貴方がいるから来たくなるわ。今日もお話を聞かせてくれるのでしょう?」
「ああ、君が望むなら。代わりに君の話も聞かせておくれ」
「もちろんよ」
笑みを交わした死神達は暖炉の明かりの前で言葉を紡ぎ続ける。
片方は戦いを、片方は日常を。
それは同じ死神でありながら、まったくスタンスを違える二人ならではの対話。
けれど、二人とも差を楽しんでいる。自分にはない部分を吸収していくのだ。
そう、実質この為だけに彼は仮面舞踏会を開いている。
そして彼女もこの為だけに城を訪れているのだ。
静かな死神たちの会話に、華やかなオーケストラの奏でる音だけが微かに響いていた。
Fine.