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2010.9.21 【面】
Novel stage / original:Feast of Dolls
《Masquerade》
「うーん。こんなのはどうかしら」
植物園のど真ん中にある探偵事務所。その所長を務める少女が大きなドレッサーに向き合ってうきうきと支度をしている。
身に纏うのはいつものカジュアルとは違うれっきとしたドレス。
明るいメイグリーンのバルーンドレスは重ねたペチコートでふんわりと広がっている。肩口には何枚も生地が重なってふくらみ、ペールピンクの大きな薔薇のコサージュが一つずつ止めている。腰の後ろには大きなリボンがいくつも輪を連ねていて、コサージュと同色のシュシュで束ねられた金髪が緩く巻いているのも合わせてまるで妖精のような雰囲気を醸し出している。
のだが。
今、彼女があわせているのは顔を全て覆いライオンのように大きく顔を飾る毛がついた仮面。フェイス部分の銀色の面には両頬に赤いダイヤのマークがついている。
「……いや、その服にその仮面はどうなんですか」
後ろからいつもの通り雑用をこなす少女が突っ込みを入れる。
可愛い姿と仮面とのギャップにその表情は呆れきれない微妙な表情を浮かべていた。
「あら。今、ギャップが受けてると聞いたのだけれど」
「それはかえって引きます」
「そう」
仮面を降ろした所長は声のトーンと同じく非常に残念そうな顔。
「じゃあこれはどうかしら」
今度は金色の仮面。目元と口元が三日月のように大きく弧を描いている。ストリートの道化師が身に着けていれば、人によってはこれだけで笑い出すかもしれないほど満面の笑みの形。
もちろんのことながら、妖精のような儚い姿の少女には似合わない。
「……遊んでませんか?」
「失礼ね。かなり真面目よ」
既に半眼で睨みつけ始めた少女に、再び不満の声を上げた所長。しぶしぶ手を下ろすとシルバーの仮面部分に黒い帽子のついたヴェネチアンマスクを手に取ろうとする。見た目はまるで機械兵士の看守だ。
「お願いです。やめてください」
ついに少女が手を出した。
「もう。そこまで言うならあなたが選んでよ」
「むしろそのつもりでここに来ました」
ぷんぷんと怒り出した所長。本気で切れないうちに少女はドレッサーの上に並べられたいくつもの仮面の中から、赤や緑、黄色など原色の散った目元だけを覆う細い仮面を選び出した。
カチューシャで頭に止めるようになっており、正面から見て左側には赤と黄の羽根が数本挿しこまれている。
「……普通過ぎないかしら」
「折角の妖精さんなんですから、この辺に落ち着いた方がいいと思うんですけど」
「もう。つまらないわね……でも貴女がそこまでいうならそうしておくわ」
所長は潰れないよう丁寧にジュエリーボックスの下の棚に入れる。その部分は上とは独立して引き出しとなっている為、アクセサリがひっかかることもないのだろう。
「さてと、じゃあ行ってくるわ。鍵の場所はわかっているわよね?」
「はい」
ミニハットを軽く止めるとくるりと振り替える。もともと不思議な雰囲気を漂わせている女性だけあってシックな事務所の中でもあまり違和感を感じさせない。
彼女より少し年下の少女は憧れにも感動にも似た眼差しを向けていた。
「戸締りお願いね。お土産はちゃんと貰ってきてあげるから」
体重を感じさせない足取りが事務所の扉の外へ消える。残された少女が窓から下を覗くと少し経ってふわふわした妖精が木々の中を歩いていく。昼間なのもあって傍から見れば格好そのもの異様だが場には合っていた。
「……ほんと。あの所長さんって何者なんだろうなぁ」
信頼は出来るが突飛な行動や秘密の多い彼女。けれど、それはそれで見てて楽しい、と割り切るのが少女なりのやり方だった。
Fine.