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2010.9.25 【生】
Novel stage / original:Absoetia
《小さな手》
にいさま。
どうしてわたしはとうさまにきらわれているのですか。
どうしてわたしはかあさまにおあいできないのですか。
……ほんとうはにいさまもわたしがきらいなのですか……。
使用人すら最低限の用でしか近付かない、屋敷の片隅にある小さな部屋。寝台とサイドテーブル、小さな本棚しかなく、日の光も天窓から微かに差し込むだけ。
高熱に魘されながら幼い子供が切れ切れに呟く言葉が、看病する彼より少しだけ年上の少年の心を抉る。
「そんなことない……私が、お前を嫌いになったことなどない……」
少年は懸命に弟の手を握って悲しい言葉を否定し続ける。
けれど、彼に否定できるのは兄に嫌われているのではないかと言う子供の想像だけ。母親に会えないのも、父親がまだ幼い子供へ良い感情を抱いていないことも理由はあれど本当の事なのだ。
「にいさま……」
「私はここにいるよ」
すぐに熱くなってしまう額の濡れた布をこまめに取り替え、手が空くとまた小さな手を握って語りかける。生まれつき日の光を苦手とするその手は細く、酷く頼りない。
「かあさま……わたしは、いらないこ、ですか……」
涙が赤い頬を流れ落ちる。
普段口数の少ない子供は幼いながらも自身の立場をわかってしまっていたがゆえに、会いたいという願いも、寂しいという想いもひたすら自分の内に押し込んでしまっていた。
こんな時でもない限り素直に感情を吐露できない弟に、少年は少しでも楽にいられるよう手助けをすることしか出来ない。
「いらない子なんかじゃ、ない……」
本当は少年だけなら母親に会うことが出来る。
だが、それ以上のことは出来ないのだ。
例え母親へこのことを伝えたとしても、父親は彼女が弟と会うことを許さない。
「私にはこうしてついててやることしか出来ないが、諦めるな……生きてて、くれ」
少年はすがるように小さな手を握り締める。
「お前がいるから、私はここにいられるんだ」
独裁的な父親にこの家で歯向かえる者などいない。少年も例外ではなく、期待されているとはいえ重圧は毎日のように感じている。
けれど、彼が守るべき弟がいるから。
立場はほとんど同じなのに酷い扱いを受けて、病気の時にすら誰にもついていてもらえない弟がいるから。
少年はこの場所に留まっていることを選ぶ。
「生きていて……」
「……にいさま……」
弱弱しく握り返す手。熱に浮かされた赤い瞳がぼんやりと見上げる。
「大丈夫だ。私が、ついているよ」
少年がそう告げると、安心したように再び瞼が閉じられる。
慈しみの目で子供を見る少年は、子供の熱が下がるまで、ずっとその手を握り続けていた。
Fine.