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2010.9.29 【弾】
Novel stage / original:Abyss of Time
《裏の世界の支配者》
目を覚ました時、僕は自分が機械であることを忘れて、今まであったことが全て夢だと思った。
真っ先に視界を支配したのは木が秩序立って組まれた天井。黒く太い梁は役割に相応しい重厚感を漂わせている。
「ここ……」
起き上がると体にかけられていた布団が落ちた。
周りを見回すと九畳ほどの部屋に木の棚がいくつか。壁は白い漆喰で覆われ、明るい光が差し込む方には真っ白な障子が並んでいる。
どこかの家、それも古い日本家屋。先程までいた赤いリコリスの園とは明らかに違う。
「……心さん」
最後に目の前にいた人物を思い出す。
僕は紫さんを逃がす為に心さんの攻撃を受け止めて、それから、その背後にいた女性と目が合った。見覚えのある人の目を見た途端、急に体が動かなくなって、僕は止まった。
「あの人……心さんに似ていた」
僕が呟くと、何故か答えが返ってきた。
「心は、私の娘ですから」
いつの間にか、僕の左側にはあの女性が座っていた。最後に会った時のスーツ姿とは違い、長い金色の髪を結い上げて簪で止め、白い文様が染め抜かれた紺地の綿麻の単衣を着ていた。
「こんにちは少年。また会いましたね」
「あなた、は……」
にっこりと笑う金色の瞳と視線が交差する。
すると、再び頭がふらふらし始めた。今度は意識を失うほどではないが、体に力が入らない。
再びぱたん、と布団に倒れる僕に女性は布団をかけなおした。
「ごめんなさいね。こういう体質なの」
そして白い手を僕の目の上に当てた。視線が合わなくなると、脱力感が一気になくなった。
「少しこのままでいてね。あなたには運ぶのを手伝ってもらったお礼の分、ちゃんとお話しするわ」
すまなさそうな声で言う女性の指示に僕は従った。目が合うと力が抜けるのは本当のことで、僕もこの人にはいろいろ聞きたいことがあった。
「あなたは……あの夜にお逢いした人、ですよね」
「ええ、そうよ」
女性はあくまで優しい声で告げる。
「私はあの子の製作者、ルシファー。イレイサー達に命令を与える者よ」
「……え」
「ここは私達の世界。本当は表の世界の人を連れてきてはいけないのだけれど、あの場所ではゆっくりお話も出来ないものね」
女性、ルシファーが言葉を続けようとしているのも振り切って、僕は起き上がった。
目を閉じたまま、腕を慣れた砲身型へと変える。
だが、その途端、違和感を覚えた。
思考から発動までの時間が早すぎるのだ。それどころか腕の先に集まるエネルギーも今までの比にならないくらい巨大だ。
僕は思わず目を開いた。
変形した腕の形は見慣れた砲筒の形。けれど人の肌そのままだった色は黒々とした鋼の色に染まっていた。集まって今にも放たれようとしている光の弾も白ではなく深紅の輝きを放っている。
弾に収束するエネルギーが弾けんばかりに溜まっていった。
「あ、あ……」
一瞬にして集まった力すら、普段の僕が扱うエネルギーの量を超えている。纏め切れなかった力がばちばちと紫色の雷となって腕に纏わりつく。
すると、女性はその状態の腕をやんわりとつかんだ。
「起動したばかりで慣れない武器を使うなんて危険よ」
そして再び金色の瞳と目が合う。
「もう少しお休みなさい」
かくん、と膝を折った僕を女性は布団の中へと戻した。
もしこの人が言っていることが本当なら、僕はこの人の配下と戦い続けてきたことになるのに、まったくそんなことは気にしていない口振りだ。
「せっかく来たのだもの。ちゃんとお話しましょう」
艶然と微笑んだルシファーは再び僕の目の上に掌を置いた。
Fine.