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2010.10.2 【堕】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《表裏逆転》
ぎきゃあああぁっ!
四方に散ったベルゼバブから放たれた何本もの雷の矢がルヴニール達を一気に貫いた。特に背後からの一撃に体のど真ん中を貫かれた子悪魔は積み重なったダメージもあって耐え切れず、大きな鳴き声と共に小さな赤い光となって消えた。
「グレムリン!?」
叫ぶシャーマンも杖を持たない腕を掠められ、血が滴っている。他の仲間たちももう無傷でいるものは誰も居ない。
「ほほほ、いつまで立っていられるかの」
集中砲火で既に一体は塵へと変わったものの、残り三体は未だ健在。それぞれがばらばらに動いて、黒い錫杖から今度は雷を迸らせているのだ。
光よりも動きの不規則な雷の方が流れがつかみにくい。ただでさえ動きの苦手なオークオラクルやシャーマン達の被害が大きいのだ。
「そんなに長くは持たないぞ」
一体と相対するバーサーカーが舌打ちする。彼女を猿田彦が援護し、他の分裂二体はそれぞれカイムとルヴニールが中心に攻め立てているが、瞬間移動を行うベルゼバブ相手では常に相対し続けるのは難しい。
「せめてあやつがもう少し冷静であれば……」
すぐ耳の側で小悪魔の絶命を聞き取ったにも関わらず、青年の怒りは収まらない。むしろ段々高まっているくらいだ。
直に感情を顔に表すルヴニールだが、実は心の底は静まっているのが常だ。外見を変化させるのはポーズに近い。
そうでなければこの混沌の世界で戦ってくることは難しかっただろう。
だが、今はあえてその制御を外しているようにも見える。
それとも外れかけている、のかもしれない。
「おお、ますます動きがよくなってきておるの。やはりそなたは今まで本気を出しておらなんだか!」
感情の箍が外れる程に刀を振るう力は強く、鋭く。
まともに相対すると蝿の女王でもそろそろきつくなってきたようで、瞬間移動を多用しながら間合いを外している。
微かな間にはもちろん雷光が輝く。しかし、全身の動きが活発になっている青年がそう簡単に当るわけもない。
雷を左右にかわしながら地面を蹴ると間を詰め、幾度目か闇の衝撃波を放つ。
「レイジング……スラッシュ」
「おぉ!」
回避し損ねた蝿の女王がその体の半分を削られる。
「ルヴニール、下がって!」
シャーマンが続いて雷の二の矢を放つ。歓喜に震える女王へ止めを刺したかに思えた一撃は。
「我が楽しみを小娘如きが邪魔するでないわ!」
健在な腕が持つ黒の錫杖が放ったより巨大な雷に飲み込まれ、射手の下へと送り返された。
もちろん、シャーマンの少女に受け止める術があるわけもない。
「きゃああああっ!」
全身を雷で打たれた細身の肢体もまた、小悪魔と同じ輝きに包まれて消えていく。
消える刹那。
「ルヴ、ニール……いつもの、貴方に……」
振り返った唇が微かに告げる言葉だけが残った。
残った輝きは瞬きひとつで消えていく。
その僅かな煌きを散らすように、彼女のロードは一気に走りこむと蝿の女王の残骸を一気に黒い塵へと変えていった。
「ほほほ……まだまだ終わりではないぞ」
同時に黒翼の男性によって切り裂かれた女王もまた塵と変わり、一つの黒い塊を形成する。もちろんそこへ猿田彦とオークの老司祭が力を叩きつけるも塵の状態ではほとんど攻撃を受け付けないのか、まったく減る様子はない。
だが、ここで今までと違うことが起こった。
「……シャーマンちゃん、ありがとう」
青年が、漸く戦い以外の言葉を口にしたのだ。
『ルヴニール』
「これだけ頭に来ても、まだ私だったなんて思わなかった」
驚愕と不審の目を向ける仲間たちと、塊から合計五体へと増えようとする蝿の女王へ向かって青年は宣言した。
「私は、堕ちる。もう一人の私へ」
ざわり、と空気の動く音がした。
姿形はまったく変わらない。だが、纏う雰囲気が違いすぎる。
とらえどころのない不思議な、けれど揺らぐことのなかった空気。それは怒りに捕らわれてからも変わらない平坦さだった。
それが一気に変わる。
気の弱いものなら変化した瞬間、自身が貫かれたように感じただろう。
強い害するという意志が発せられる。
同時に、ロードとしての象徴であるアルカナの紅い輝きを湛えた瞳が強く爛々と輝く。
「ほう……」
感嘆の溜息をもらす魔種のロードへ、人間のロードは表情の消えた顔でただ言う。
「本番を、始めよう」
Fine.