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2010.10.7 【学】
Novel Stage / original:Feast of Dolls
《亀の甲より年の功》
秋の草花が咲き誇り、イチョウの葉が黄金の輝きを湛える澄んだ空気の日。
街中にある植物園は各地から訪れる観光客や秋を楽しみにしている地元の人々で賑わっていた。
天高く晴れ渡る今日は絶好の写生日和。
それを証明するように植物園の中にある古ぼけた煉瓦造りの建物の三階では、大きな南向きの窓の前に陣取って二人の少女がスケッチブックを広げていた。
二人の間にある小さなテーブルには色鉛筆と小筆、筆洗い用の小さなコップにスポンジやティッシュ。水彩色鉛筆に必要な一式が揃っている。
「やっぱりこの時期が一番きれいね」
所長が鉛筆を走らせながら頷く。何のこだわりか、芯の濃さがFの鉛筆は躊躇うことなく紙の上を滑っていく。
対して、もう一人の少女は筆箱から取り出したHBのシャープペンで描き出していく。慣れていないのか、こちらの方が時折紙の繊維に先を引っかけたりしていて少しぎこちない。
「ドリーさん……なんでそんなに上手いんですか」
制服姿の少女が所長の手元を覗いて呟く。
イチョウの木だけが二本描かれたスケッチ。
右側にある方が前面にある為大きく、適度に葉や表面などが省略されているがしっかり主要な部分は描かれている。ここに色の濃淡を乗せれば十分に立体感も生まれるだろうことが容易に想像できた。
「そうね。いろいろ沢山経験したからかしら」
自身の絵と比較して落ち込む少女を、あまり年齢の変わらない所長が微笑ましい目で見守る。
「経験は何にも勝る勉強、人生はどんな学校もかなわない学び舎だわ。自然とやったことないことでも、それなりに出来るようになるのよ」
「ドリーさんと私ってそんなに年齢違わないと思うんですけどー」
微笑みながら小筆を取るドリーの隣で、少女は自身の絵をくるくる回し、いろいろな方向から見てみる。
彼女は窓越しの風景として描いた為、窓枠とイチョウの木が一本、白いキャンパスに浮かび上がっていた。
シャープペンという細い芯によって線が少々曲がるのは仕方がないが、少々描きこみすぎていてかえって全体がのっぺりと平面であることが強調されている。
少女は曲がった線を描き直しながら、所長のデッサンを真似て濃い部分を消しゴムで削る。
「ふふ。濃さの違いかしらね」
彼女は水彩色鉛筆を水で伸ばしながら縁をぼかしている。黄と黄緑で葉の部分を色付けして、幹も茶と黄で光の当たっている部分を残して塗っていく。
「確かにドリーさんって人生密度濃そうですね」
漸くデッサンに満足したのか少女はスケッチブックの表面から消しゴムのカスをゴミ箱へ払い落とす。
入れ替わりに立ち上がったドリーは、絵を陽の光へ向けるように置くと少女を軽く睨んだ。
「あら、それはどういう意味?」
「そのままの意味です」
素知らぬ顔して答えた少女は濃い茶色の色鉛筆を手に取った。濃い窓枠から塗る気らしい。
「そう。濃い色は失敗するとリカバリーが効かないから気を付けてね」
言い置いて、所長はいつもの机の前に座りなおすと置いてあった紅茶を口に含んだ。
その背後では少女がそっとベージュの色鉛筆を手にしていた。
Fine.