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2010.10.11 【善】
Novel Stage / original:Willwart
《善の重さ》
唐突に尋ねてきたあの夜から、フォレスターは度々アルコールを手に深夜メロウ家を訪れる。
もちろんアレックスは毎回断るのだが、弟にすら止められない勝手な勢いをただでさえ苦手としている青年が止められるわけもない。
それに、話題自体は彼にとっても興味があることが多い。
こうして深夜の奇妙な飲み会が続いているのだった。
今夜、黒翼族の男性が持ち込んだのは甘酸っぱい果実を漬け込んだホワイトリカーと乳糖ベースのウォッカ。それなりに強い酒ではあるが、毎回フォレスターがもってくるのはそういうものが多い。
アレックスにとっても軽く酔っている方が話しやすいので諦めてグラスを開けていた。
「まだ地上の戦争は続くらしいです。露骨に領地を広げようとしている国が、未だに彼女の国を諦めきれないらしい」
疲れたように青年は呟く。空中都市とはまったく関係ないとは言えど、争いを見続けるのは彼には辛いのだろう。
あれだけ純粋な妹がいるだけあって、この青年もまた人の痛みには敏感だ。
男性はウォッカのグラスを傾けながら笑みを浮かべた。
「ふふ、空は平和だ。何しろ私達は急ぐ必要はない」
グラスの中の液体が揺れる。
「欲しいものがあっても尽きない時間が、私達を穏やかにする。怒りや憎しみを持続するにはエネルギーが必要だが、優しさを持続するのは意外に出来るものだよ」
違うかい、と言うように男性が首を傾げると、青年は自身のグラスへ視線を向ける。瞳にはどこか傷ついた光が伺えた。
「君は優しいからね。好奇心に満ちた誰かさんとは違って、進んで地上へ行きたいとは思わないんだろうな」」
そういう男性の視線こそ非常に慈しみに満ちていたのだが、アレックスは気付かない。フォレスターにしてみれば弟と同い年の青年はまだまだ見守るべき存在なのだ。
しばし、二人がグラスを傾ける音だけが響く。
破ったのは青年の頼りない呟き。
「自由に行けるなら……行きたいって、思ってますよ」
フォレスターは目線をアレックスへ向けると、青年は漸く顔を上げた。表情は少し寂しそうだった。
「確かに地上では争いが多くて、誰かが誰かを傷つけてますよ」
ぐいっとグラスの中身を開けると、ホワイトリカーのボトルを継ぎ足す。酔いが回ってきていて、頬がほんのり赤らんでいる。
「でも闇が深ければ、その中に点る光は強く見える。善い行為は、空より尊い」
彼はそっと目を閉じた。まるで酔いに身を任せるように。
「俺は……それを見てみたい」
「なるほど、ね」
自らのグラスを空にしたフォレスターは、まだ中身の残っているアレックスのグラスを抜き取ると残った液体を飲み干す。
「君もまた難しい考えをするものだ。もっとも、若いうちはそれでいいのだよ」
黒翼族の男性はそう言って笑うと、青年の頭を軽く撫でた。
「さあ、今日はもうお開きにしようか。これ以上飲ませると」
言い終わるよりも早く男性は気付いた。
てのひらの下から聞こえてくる静かな寝息に。
「おや……珍しいな」
フォレスターは苦笑しながら、アルコールの回った頭でどうやって彼を運ぼうかを考え始めた。
Fine.