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2010.10.12 【闇】
Novel Stage / Fun Fiction:LοV
《かくして闇より光はいずる》
それは本当にルヴニールだったのだろうか。
黒い闇を纏う刀が振り降ろされる勢いも、飛び回るスピードも特に変化があるというわけではなかった。だが一挙手一投足の無駄が先程よりも削がれている。
必要な力を。最短の距離を。
怒りにすら捕らわれない、その全身の能力を発揮した能力は黒翼の男性にも及ぶかも知れない程。
「何なんだ、あいつは……」
猿田彦と共に一度前線から外れたヒルデが唇を噛む。訓練をつけたとはいえ、あの弱弱しかった青年とは思えない。
もちろん彼の体力そのものが補われたわけではないけれど、切り裂かれた空気を見れば膂力の低さを補って余りあるだけの威力があった。
「だが、アルカナの力とでもいうのじゃろうか。あの蝿の女王と同じ威圧の気配は、かなり強くなっておるぞ」
そう、何故か今の青年からはアルカナの力を強く感じる。
実際のところ、ルヴニールは普段瞳の色を見ないとロードとはわかりにくいほど気配が弱い。数の合わないアルカナ。それは彼のものなのではないかと疑う程に。
しかし今の青年を見ればわかる。
彼は、確かにロードなのだ。
「ふ、ふふ……そうで、そうでなくては、な」
塵になりゆくベルゼバブが狂った笑い声を上げる。笑い続けた喉は少しかすれ始めていたが、その残虐な存在感はむしろ増し続けている。
「そうでなくば……わらわの本気には付き合えないだろう!」
再び集まり、形を作り出す黒い錫杖の本数は五本。
その先に生じる色なき刃は、もう数え切れない。
「さあ、何人生き残れるかの!」
スコールのように降り注ぐ尖った白い槍が、ルヴニール達全員の上へと襲い掛かる。
黒い暗い闇の中。
「早く……早く、私をお呼びなさい。ルヴニール……!」
腕の中に鏡をしっかり抱えたまま断罪の天使が叫ぶ。このままでは青年が闇に、黒い色に塗りつぶされてしまう。
いや、そうではない。
ルヴニールが心の奥底に鍵をかけて閉じ込めておいたモノが溢れ出してしまうのだ。
切り離しが得意な理由もそれでわかる。
彼は心の中にいくつもの扉を持っていて、必要ないと判断した扉には鍵をかけている。それを繰り返すことでルヴニールという人格を形成していた。
けれど、本来それは非常に脆いものだった。だから守らなければいけなかった。
蝿の女王はひとつの鍵を無理矢理こじ開けようとしている。そして隙間の開いた扉から漏れた闇が世界を、心を塗りつぶしていこうとしているのだ。
「ルヴニール……」
彼女がここで膝を抱えて泣いていた時に青年がかけたのと同じくらい、彼女は青年を呼び続ける。
断罪の天使にとって、それは酷く長く感じられた。近くに感じる意思、ベルゼバブに殺される彼の仲間は次第に増えていく。
「……ルヴニール!」
何度も何度もその名を呼ぶ。彼女を殺した、彼女自身の仇だと言うのに。
そして何十度目かの呼びかけののち。
「……パワーズ、ちゃん……」
頼りない、か細い声が聞こえた。
本来のルヴニールの声が。
その瞬間、全てを被いつくさんとする黒い闇から一対の白い翼が飛び立った。
To be continued...