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2010.9.5 【夏】
Novel stage / original:Abyss of Time
《終焉が訪れる前のいくつかの出会い 2》
長い夏が続く猛暑の日。
私は普段通り紫さんの手伝いを終えてバイト先のパン屋へと向かっていた。
雇い主のご夫婦はとても優しい方々で、私が普通の人間と少し変わっていると聞いても快く受け入れてくれた上、紫さんの手伝いで時間がずれ込んだりしても笑って許してくれる。
研究所である『久遠の薔薇』ですら人造人間に対して偏見を持つ人は少なくない。ただの人形、兵器としてしか扱わない人もいる。普通の人間相手であっても、少し変わっている、というだけであまりいい顔はされない。
そう思うと、この優しさが愛おしくて仕方がない。
ご夫婦だけではない。紫さんやすずなくん、優しさを向けてくれる皆が私にとって大切な存在になっていく。
そして、大切な人が増えていくことが、嬉しい。
「こんにちは。遅れてすみません」
従業員が出入りする扉を開ける。人工的な冷房の風が太陽で火照った身体を冷ましていく。
「ああ、心ちゃん。お疲れ様。少しぐらいは仕方ないわよ」
着替えへと向かうと、丁度パン屋の奥さんと鉢合わせた。三十分程遅れたことを謝ると気にしないでと笑う。
そして、一つの封筒を渡された。
「これは?」
「ちょっと前に来たお客さんがね、心ちゃんへって。皐月さんの用事だといつ終わるかわからないから預かっておいたのよ」
ラブレターかもよ、と奥さんがウインクする。
確かに封筒はラブレターなどで使われそうなファンシー柄。小さなヒヨコと白いニワトリがデフォルトされた模様は女の子が好む文具のコーナーにありそうなもの。
「あ、ありがとうございます。仕事の後で読みますね」
「何、後で来るかもしれないから先に読んでしまいなさいな。どうせすぐだろう?」
封筒にそれ程厚みはない。せいぜい紙が一、二枚というところだろうか。それに内容は気になるところだ。
「はい。わかりました」
頷いて、ロッカーのある場所の椅子に座る。
たまごの形をしたシールを剥がし、封筒を開けた。
「手紙、じゃないわね」
入っていたのは一枚の写真。彼岸花がフレーム一面に咲き誇る光景は、怖いくらいに美しい。
「彼岸花……リコリス」
『リコリスの狂い咲く田園で、また会いましょう。可愛い子供達』
あの時かけられた言葉。誰かはわからなかったけれど、気になって仕方のなかった人の言葉。
私は慌てて写真を裏返す。細い黒のペンで書かれた一文が目に入る。
『来る秋分の日、それが貴女の十八回目の誕生日。美しい花と共に再会いたしましょう』
「嘘、でしょう……」
誰に作られたのかもわからない私には、自らの作られた日などわからない。
知っているとすれば、それは。
私を捨てた、私の製造者……。
To be continued...