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2010.8.26 【狩】
Novel stage / Fun Fiction:ととモノ。
《守り》
少女は背中の矢筒から一本の矢を取り出した。
大きな橙色の瞳がはしゃいでいる時のようにころころ表情を変えることなく、真剣に数十メートル先の標的を睨みつけている。
戦いの最中にしか見せない、獲物を捕らえ、追い詰める狩人の目。
彼女は一つ大きく深呼吸するとはっきりと口にした。
「お願いしますっ!」
少女と的の中間地点に立った教師が手を真っ直ぐに上げた。
「レディ……」
両方の静止を確認したうえで彼は宣言する。
「……スタート!」
同時に弓矢を持つ少女と標的となっている的、何枚かのカードが纏まって浮いているものが動き出した。小柄で盗賊としての腕前も持つ少女も薄いカード状の的もかなりの速度だ。
少女は走りながら隙を窺い矢を放つ。時には二、三本放たれることもあったが、お互いに動きながらの戦いでは簡単に当たることはない。
(このままじゃ当らない……)
標的から飛んできた火の魔法を避けながら少女は意識を集中させる。思い浮かべるのは研ぎ澄まされた一条の矢。
相手の攻撃を最小限の動きで避けながら彼女は集中を高めていく。命中率を上げるアップオフェ。狩人が取得する超能力の一つだ。
もちろん、発動している間にもカード状の標的は火や水など各属性の攻撃魔法が飛んでくる上、近付けばカードそのものが体当たりしてくる。いくら少女の身が軽くとも全てを避けきることは不可能。
だが。
「これで、終わりっ!」
小さな腕をいっぱいに広げて引き絞った弓がその緊張を解く。
ほとんど音を立てずに放たれた矢は僅かに札を掠める。だがついで放たれた矢が集まるカードの中心、透明な青い球を打ち抜いた。
ぱき、と乾いた音を立てて砕ける玉。同時に浮いていたカードがまるでただの札のようにばらばらと地面へと落ちた。
「見事だ」
開始の合図をした教師が軽く手を叩く。
「あそこまで動きながら狙撃が出来れば上出来だ。その身のこなしならもっと武器の扱いに長けた学科でも十分にやっていけるだろう」
「えへへ。ありがとうございます」
弓を抱えたクラッズの少女がぺこんと大きく頭を下げた。
「でも、あたしはこのままでいいんです。いろいろなことができるこのままで」
「だが超能力は得意ではないだろう?」
「それはそうなんですけど……でも出来ないよりいいですから」
少女は笑って言う。
「出来ないことは少なくしたいんです。仲間を守るために」
本来なら何か一つを極めた方が望みは叶うかもしれない。けれど逆に極めたメンバーばかりがまわりにいるのなら、汎用的に行動できる人間がいた方がバランスは取れる。
彼女の目指すのはその立場。
「そうか」
すると、教師はあっさりと引いた。
「ならば仕方あるまい。中途半端には投げ出すなよ」
「はーいっ」
さっきの真剣さはどこへやら。すっかりいつもの笑みに戻った少女は、教室へと走っていった。
昼休みには、大切な人が待ってる。
Fine.