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2010.8.25 【槍】
Novel stage / original
《Oenanthe No.8》
少女が王子様に再びめぐり合ったあの日。霧を抜けてきたのは彼だけではなかった。
要所を金属で止めた軽量の皮鎧に額当て、槍を持った男性が十数人。なめした皮の防具には全員お揃いの紋章が付けられている。銀の縁に青地の盾、交差した二本の槍には赤い布がたなびいている。
彼らは半分ほど霧に包まれた花畑に分け入ると少女と青年を取り囲んでいる。
「ナンシィ……」
光の球が警戒心をあらわに少女の頭に止まる。
しかしまったく気にせずに青年は彼女の目を解放し、小さな肩に目を覆っていた手を置いた。
「驚かせてすまない、お嬢さん」
「あ、あ……」
もう会えないと思って、忘れようとしていた王子様。
会いたくて仕方がなくて、心が惹かれ続けた王子様。
憧れの彼が今まさに彼女の後ろで、彼女へ囁いているという状況に少女は言葉もなく目を見開いていた。
顔が紅葉に染まり、胸の鼓動が早鐘を打つ。
「……ど、どうして……」
真っ白になった思考の中で少女が最初に唇へ乗せたのは純粋な疑問だった。
「どうして、ここに……」
震える言葉へ青年はコイフのすぐ側で優しく囁きかけた。
「どうしても、もう一度会いたかった」
言いながら彼は少女の目の前へ移動し、跪く。白い手袋に包まれた手が草の露に濡れた少女の手をそっとおしいだいた。
「名も知らぬ、花の妖精のように可憐な貴女の瞳を見て、言葉を交わしたくて、どうしても来てしまったのです」
「そ、そんな……」
いかにも歯の浮きそうな言葉。だが少女にとって絵本の中から出てきたような憧れの王子様、歌劇でしか出てこないような台詞は返って少女の鼓動を早めるだけだった。
「ナンシィ、しっかりしてよ! 外の人がこんなに来てるって村の一大事なんだよ!」
ぼんやりと夢の世界に落ちかける少女を幼い少年の声がおしとどめようとする。
外部との接触を禁じる村の掟。前回はまだ境界線まで、それも一人だけだったこともあり光球も報告しなかった。実際迷い込む旅人がいないわけではないため、送り返すくらいのことは暗黙の了解がある。
けれど、これは違う。
この青年は迷ったのではなく明確な目的を持って霧を抜けてきた。武器を持った男達を何人も連れて。
彼らは……侵略者かもしれない。
光球の心配がまるであたったように少女の手を握る青年は言う。
「お嬢さん、どうか貴女の落ち着ける場所まで案内してくれないだろうか」
少女は暫し躊躇った後、バスケットを抱えてそっと立ち上がった。
Fine.