365 letters 2010.8.21 忍者ブログ
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2010.8.21   【母】

Novel stage / original:Willwart

《つつまれるぬくもり》


 



 

 空中都市ウィルワート。
 都市の中心部という主要な場所である賑やかさとは裏腹に、ブラックスター家のテラスでは四人がのんびりと午後を過ごしていた。
 普段なら仕事のないレスターとパールだけ、というところだが、たまたま休みを取っていて自宅にいたギルフォードと何故か非番の日をレスターに把握されているアレックスも巻き込まれたのだ。
 今は大きなパラソルの下でゆっくり談話中、とはいうものの。
「すっかり眠ってしまったね」
 この場の最年少、パールは日陰におかれた長椅子で小さな寝息を立てていた。
「揃うのは久しぶりだから、な」
 なかなか都合の合わない四人が集まったことで、彼女は午前中から空を飛び回ったり、カードゲームやボードゲームで遊んだりとはしゃいでいた。ましてや少し遅めのブランチを取ってお腹がくちくなれば、眠たくなるのも必然といえるだろう。
 微笑ましく見守る兄弟。彼女の兄はというと流石に苦笑しながらも、仕方ないな、と静かに上着を少女の肩へ掛けた。起こすつもりはないようだ。
「すみません。一回眠気が来るとなかなか起きないんです、こいつ。少し眠ればすぐ起きますから」
「構わないよ。あれだけはしゃげば疲れもする」
 平然と返しながら紅茶のセットを作り始める二人へもう一度すみませんと呟いてから、アレックスはストールの端でパールの右手をくるむと先を少女の掌の中へ落とす。
「ん……」
 きゅ、と小さな手が閉じた。寝顔が幸せそうに微笑む。
 戻ってきた白翼族の青年へ友人の青年が尋ねる。
「パールへ握らせたのはおまじないかなにか?」
「ああ、あれか。ついやっちゃうんだ」
 席に着いたアレックスは照れくさそうに笑った。不思議そうな顔をしたギルフォードへ彼はカトラリーのフィナンシェへ手を伸ばしながらそのまま言葉を続けた。
「俺達の母親は体が弱くて、パールがまだ小さい頃に亡くなったんだ」
 ウィルワートでも死亡者は出る。ただ自然死、つまり寿命がない分、数は地上と比較にならない程少ない。一日に一人出るかどうかといったところだろうか。事故や病気によるものが主だ。死というものをどこか遠いものに感じている者も非常に多い。
「……悪いことを聞いたか」
「いや、いいんだ」
 あまり変わらないギルフォードの表情がすまなさそうになるが、アレックスはぱたぱたと手を振った。
「ともかく、それから暫くパールが寂しがって眠れなくなって、そのときに取ってた方法なんだ。あいつは眠るとき母親と右手を繋いでいたから、右手が包まれていて何か握りしめていると安心するんだ」
 これでいいか、というように首を傾けて青年は紅茶を口に含んだ。特に何か重いことを話したという様子ではなく、本当に世間話をしただけという雰囲気だ。
「そうか」
 平然とした様子が本心かどうかはわからないが、ギルフォードは信じることにした。
「アレク、まだ一杯分あるから飲みたまえ」
「あ、すいません」
 空気を変えるためか、レスターがアレックスへ話しかけた。振った話はしばらく続きそうな話題だ。
 黒翼族の青年は時折口を挟みつつ、段々二人の専門分野へ話が進んでいく所でそっと中座した。
 むにゃむにゃと長椅子で横になる少女の側に座る。話の通り、小さな右手はまだストールの端を握っていた。
 幸せそうな顔。
 ギルフォードは穏やかな寝息を静かに聞いている。そして、そっと握りしめた手を自分の手で包んだ。
 すると。
「ギルくん」
 ぽつん、とパールの唇から名前が呼ばれる。
 とっさに手を離すが、よくよく観察してみるとまだ彼女は夢の中だ。
「……偶然か」
 青年は胸をなで下ろす。そのまま側で見守り続け……彼は再び小さな手を取った。
 指先をきゅっと握られる。
 赤ん坊みたいなそんな仕草に、ギルフォードは胸の中がほんわり暖かくなるような感覚を覚えた。

「ところでアレックス、パールが右手ということは、君は左手を握られると安心するのかな?」
「な!?」
「普通母親は子供が二人いる場合、両手で包んで寝てあげるものではないかね」
「ぐ……」


 Fine.


 

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