[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2010.8.18 【霧】
Novel stage / original
《Oenanthe No.7》
霧に包まれた村は変わらぬ平穏を保っていた。
少女もまた時折物思いにふけりながらも段々現実を受け入れ始めたのか王子様を思い出す回数を減らして行き、小さな光の球を喜ばせた。
毎日のように山や森で薬草を摘み、乾燥させ、調合する。村の医療を担って来たウィッチドクターの一員としての暮らしが続いている。
平和な日常に安らぎを感じた少女はあの非日常を忘れていっていた。
忘れていって、いたのだ。
予期せぬ来訪者から一ヶ月。この日は普段よりも霧が濃くかかっていた。
少女がよく通う花畑も半分を真っ白な霧に包まれていたが、彼女は見える範囲で花を摘んでいく。全て薬効のあるものだ。
「いつもより摘んでる量が多いんだね」
「季節の変わり目は体調を崩す人が増えるから、今のうちに作っておかなきゃね」
気温が変動する時期はどうしても風邪を引いたり持病が悪化する人が増える為、今から薬を蓄えて置かないといざというときに切れかねない。
年季の入ったバスケットに花や葉、根などを種類別に分けて詰めていく。
光の球は邪魔しないようにとちょろちょろあちこちを飛び回っていたが、暫くすると飽きてきたのか少女へ話しかけ始める。
「もうそろそろお祭だよね! ナンシィは誰と踊るの?」
「セリ、流石に気が早いわよ」
豊穣の祭りはまだ数ヶ月先。準備どころか前提である収穫作業すらほとんど始まっていない。
あまりに先の話に少女は苦笑するが、光球はかまわずに話を続ける。
「あーあ、僕がナンシィと同じくらいの大きさだったら、一緒に踊って村一番のカップルになって見せるのになぁ」
ら~らら~と歌いながらくるくると飛び回る。動きはまるで踊っているよう。
「もう、セリったら」
少女は思わず手を止めてくすくすと笑う。すると光は不満そうに彼女の前で止まった。
「笑ってるけど僕は本気だよ、ナンシィ。ちゃんとエスコートだってするんだから!」
子供だったら確実に頬を膨らませているであろう気配に少女は笑ったまま答えた。
「わかったわ。もしもその時が来たら、お願いね」
「もっちろん!」
光球は元気よく答える。
無論、二人とも本気で約束の果たされる時があるとは思っていない。他愛もない友人同士の会話。
少女と光球は同時に噴出すと笑い出した。
「あはははは」
「ふふっ」
「楽しそうだね」
突然、男性の声が割り込んだ。同時に少女の両目がそっと塞がれる。
「きゃっ!?」
驚きながらも、少女は気付いてしまった。
聞こえてきた声があの王子様の物だと言う事に。
「また、会えたね」
優しいテノールが少女の中へと染み込んで行く。
ときん、と心臓が鳴った。
Fine.