[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
2010.8.14 【上】
Novel stage / original:absoetia
《天上の世界》
生まれて数ヶ月の我が子を抱きながら、母親となるにはまだ幼さを残した少女が語りかける。
「あら、そんなに聞きたいの?」
言葉もよくわからないだろう赤子はきゃっきゃと手を閉じては開き、喜んでいる。
「じゃあ今日もお空のお話をしてあげるわね」
揺れる安楽椅子の上で、少女はゆっくりと我が子を揺らす。
「お空の上はどこまでも広がっていてね、雲の上にお家があるのよ」
子供はぎゅっと母親の袖を掴み、赤い瞳でじっと見上げている。
「皆、背中に翼を持っていて、空を自由に飛べるの」
嬉しそうな微笑みを浮かべながら彼女はそっと窓際へと立つ。きちんと子供には日の光が眩しくないようにくるんだ布で影を作ってやりながら。
「困ったことは皆で相談して、戦いなんてしない。平和で、穏やかで……私には、ちょっとつまらなかったわ」
優しい微笑が、少し悲しそうな色を帯びる。
少女の背に負った白く大きな翼がぱさぱさと軽く羽ばたいた。
「でもね、地上に来て思ったの。平和って素敵なことなのね」
あー。
ぺち、と小さな手が少女の頬に触れる。
「あら、話が逸れたわね。ごめんなさい」
くすくすと笑いながら彼女は我が子を揺すった。むーっと少しご機嫌斜めの様子だ。
「はいはい。ちゃんとお話するわ」
だから機嫌直してね、と言って少女は話を続けた。
「お空の上にもちゃんと公園やお家があって、あまり地上と変わらないわ。でもこんなに広くないし、王様はいないの」
うー。うー。
赤子が少女に向かって両手を伸ばした。機嫌が悪いというよりは、そう、欲しいものがあるような。
「あなたも行ってみたいの?」
あー。
返ってきたのは肯定。
「そう」
元気な返事に、彼女は再び嬉しそうな笑みを浮かべて子供へ言った。
「その時は私も連れて行ってね、キルシェ」
あー。
子供は肯定したときと同じ、元気よく手をばたつかせた。
Fine.