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2010.8.30 【口】
Novel stage / original:Willwart
《Kiss》
今日も日が昇り、鳥達の鳴く声と共に一日が始まろうとしている朝。
「ところで我が弟よ」
唐突に黒翼族の男性は本から目を上げ、コーヒーを飲みながら揃って朝食を摂っている弟へと話しかけた。
「パールとはどこまで進んだのかね」
がしゃん、と食器同士のぶつかる音が返ってきた。ギルフォードが持っていたフォークを取り落とした音だ。
黒翼族の青年は普段冷静さを欠かない割に、こういう話になるとあっさり動揺が表へ出てくる。もちろんそれを楽しんで彼の兄は色恋の話を、しかも唐突に振るのだが。
「……別に話す必要はないだろう」
まんまと術中に嵌り動揺した青年は仏頂面になりながら改めてフォークを持つ。幸い、食べ物が飛び散るようなことはなかった。
話題を打ち切って食べ続ける様子を見てフォレスターはふむ、と顎に手を添える。
しばし考えた後、真面目な顔をして言う。
「自分からデートに誘うくらいは何とかなっても途中で話が尽きてきて、実は口付けもまだと見た」
げほ。ごほ。ごふっ。
今度返ってきたのはスープで思いっきりむせ返る音だった。
「おや、当ったようだね」
にやにや笑うフォレスター。
しかしあまりに咳き込んで止まらないのを見ると、回り込んでとんとん青年の背中を叩く。その間も言葉は止まらない。
「それはそれで微笑ましいというべきなのだろうが、お嬢さんが積極的なのを見るとあまりに切なくなってくるというものだよ」
「う、うる、さ……っ」
ギルフォードは苦しさに涙まで浮かべ始めながら手を振りほどいた。
弾かれた男性は特に怒ることなく自分の使っていた食器を片付け始めた。
暫くして漸く咳を収めた青年はテーブルクロスを拭き始める。最中、戻ってきた男性に対して聞き返した。
「けほっ……だいたい……なんで、そんなに、気にするんだ」
すると、即座に至極まともな返事が飛んできた。
「それはね、大切な者には幸せになってもらいたいからだよ」
普段ふざけているくせに、こういうときだけまともな回答を返してくる。
結局、青年としてはそのギャップによって反論をする前に言葉がでなくなってしまう。
「……あのな」
それでも辛うじて口を開いたギルフォードへ、一足先に部屋へ戻ろうとしていたフォレスターはさらっと付け加えた。
「あとね。キスはいいものだよ、ギル。感触もさながら、相手の頬がほんのり染まる様は非常に可愛らしい」
「……っ!?」
即座にあった手元の雑巾を投げつけるがあっさり回避される。
もう振り向きすらしない兄に、聞いてるだけで真っ赤になった頬を持て余しながら青年は怒りの矛先を見失った。
Fine.