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2010.8.28 【戦】
Novel stage / original:Absoetia
《初陣》
――今から七年前。
数ヶ月続いていた隣国との小競り合い。
もう終盤となって新たに追加された兵士達の中には、実戦経験をつむという名目で騎士学校の希望する生徒が数名混じっていた。多くは軍隊を任される将軍達の子息、いずれは自らが軍を率いる立場となる者たちだ。
また数は少ないが他の大臣等、要職を預かる子息も加わっている。理由はあるにしろ、ラートもまた例外の一人だった。
国境上にある前線の砦には進行中の小競り合いがここのみであることもあり、それなりの人数が集まっていた。
あわただしく動く人並みを抜けて、彼らは砦の高台に立っている。
「前線の位置、隊形をよく見てください。そして敵陣の奥を」
引率の教官と砦を纏める指揮官が年若い生徒達へ見るべき所を指示する。もっとも今回の陣形については事前に教えられているし彼らも知っている。実際の動き、これからの動きを考えることが彼らの仕事だ。
戦況は明らかにアブソエティア国の有利。隊列を崩す事なく、功を焦る事もなく戦い続けている。比べて敵国は前線が崩壊し囲まれている塊があったり、弓兵が直接兵士の攻撃を受けていたりする。
それでも敵国の方は引く気はないらしい。非情な指揮官なのだろうか、奥には投石器のようなものが用意されている。もちろん接近戦で使えば敵味方関係なく巻き込まれる。
「おそらくもうすぐ発射されるでしょう」
しかし、こちらの教官も指揮官も平然としたものだ。また兵士達すら動揺する気配はない。
焦りを見せるのは今日連れて来られた学校の生徒だけ。
彼らは仲間内で話し合う。弓では届かない、では降服を迫ってみてはどうか。応じるような人間なら最初から味方を巻き込んで攻撃などしない。前線の兵のうち一部を突破させる。密偵で内部から撹乱させる。案だけはいくつも出るものの、結局打開策にはなり得ない。
「時間です」
大きな音を立てて岩が放たれ、敵兵が戦いを放棄して逃げ出し始める。
少年達を見守っていた教官が思考時間の終了を告げる。様々な知識を身につけてきた彼らとはいえ、この短時間で回答を出すことは出来なかった。落ち込む少年達へ男性は淡々と告げた。
「残念ですが、彼の手慣らしとしては丁度いいでしょう」
まだ他の少年達が対応策を話し合う中、ラートは教官の視線の先を辿った。
城壁の上に立つ彼らとほとんど変わらない、いや、少し年下かもしれない黒い軍服に包まれた小柄な体格。
指先がそっと放たれた岩へと向けられる。
その瞬間、彼らは通常では考えられない現象を見た。
唐突に上空で吹き荒れる強い、強い風。地上に吹いていたとしたら全ての人をなぎ倒しただろう風が岩を押し返したのだ。
それどころか返された岩は正確に敵陣の中心部を貫く。壁が、砦が、投石器が次々と押しつぶされていく。
戦いは、敵軍の敗走で終了した。
「精度が高いですね。彼はこれからも戦ってくれるでしょう」
冷静に話す大人達の会話を聞きながら、ラードはどこか見覚えのある気がする小さな人影をじっと見ていた。
Fine.