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2010.7.6 【辛】
Novel stage / original:Abyss of Time
《不思議な機能》
ぶん、と心さんが振り回した大きな刃が本の形をしたイレイサーを切り裂く。
交戦開始から三十分と立たないうちにもう十体以上の本型イレイサーが消えている。しかし、一度に消滅させることは難しく、どうやら一体でも残っていると次々に分裂して増えるタイプらしい。
「まったく困ったものね!」
分裂にも限界があるのかもしれないが、少なくとも現在見えていない。
「折角、ゆっくり休んでいたのにっ」
そもそも武器が足りないというのもあった。
僕と心さんがこのイレイサーを発見したのは任務中ではなく休憩中、しかも食事中だった。
即座に紫さんへ連絡を入れて追跡を開始。
他の者に接触される訳にはいかなかった為、人通りの多い場所へ出られる前に戦闘を開始した、のはいいのだが。
『悪いな。流石にまだ暫くかかる……っ』
連絡を送った紫さんの焦る声が脳裏に響く。
イレイサーのタイプはわかったものの、必要な対応策をとるだけの時間は追跡だけでは足りなかったのだ。
それまでの時間稼ぎとして僕と心さんは現在戦っているが、きりがない。
「心さん、このままでは」
僕も腕を変形させて打ち落としていくが、あまりにも数が多い。
「ええ! でもどうにかしないと!」
焦りながら心さんが一気に五体程まとめて片付ける。
「紫さん」
僕は咄嗟にポケットへ突っ込んできたものを取り出しながら、紫さんへ連絡した。
『なんだ、すずな』
「あの機能を使います。これ以上、時間をかけると逃げられます」
『……へ? あのって、おい!』
通信機の向こう側から紫さんが慌てる声が聞こえた。
「心さん、避けてください」
「す、すずなくん?」
動揺しながらも動いてくれた心さんと入れ違いに前へ出ると、僕は取り出した小瓶を一気に呷り……。
ぼおおおおおおおおおおっ!!
口から火を吹いた。
上手く纏まっていたためかイレイサーのほとんどを巻き込み、間に合わなかったイレイサーは変形させたままの腕で撃ち落す。
「え、ええっ!?」
心さんの驚く声が背後から聞こえる。
僕はもうイレイサーが出現しないことを確認して、動かしにくい口で紫さんへを報告した。
「そうとう、おわりました」
『そ、そうか……うん。ゆっくり食事終わらせてから帰って来い』
紫さんの声は、先ほどと比べてかなり脱力していた。そこに心さんが尋ねる。
「ちょ、ちょっと待ってください紫さん! 何ですか今の!?」
『ま、また後でな』
しかし、紫さんは応えることなく通信を切る。
「紫さん?」
心さんは呼びかけ、答えが返ってこないことを確認するとがっくりと肩を落とした。
そして僕に向き合うと、僕の両肩をしっかりと掴んだ。
「すずなくん、説明してくれるかな」
「はい」
心さんの問いかけに僕は頷いた。心さんの表情は真剣にも怒っているようにも見える。
「以前紫さんが漫画にはまっていたとき、再現したいということで付けられた機能です」
そう言って僕は持っていた小さな瓶を心さんへ見せた。
「これ、タバスコ?」
「はい」
食事をしていたのがイタリアンだったので、テーブルの上においてあったこれを借りてきたのだった。
「辛いものを食べると火を吹く、という」
「……あ、の、ひ、と、は……っ!」
心さんは俯いたままぶるぶると震えている。
そして、一瞬にしてぴっと立つと、一言言った。
「帰るわよ」
「紫さんはご飯を食べてこいと」
「あれはその間に逃げる為に言ったの!」
言いながら、心さんはすごい勢いでメインストリートに出るとタクシーを捕まえた。
「すずなくん、早く!」
おいていかれないように、僕もその後に続いた。
「紫さん! あなた何てことしてるんですか!?」
「おお心いいところに来た。私は暫く旅に出るからな」
「逃げようたってそうはいきません。すずなくんを玩具にして何がそんなに楽しいんですかっ!?」
「はっはっは。なんのことかはわからないが役に立ったじゃないかということでじゃあまたな!」
「逃がすわけないでしょう!」
かくして、僕の目の前で紫さんと心さんの鬼ごっこが始まった。
Fine.