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2010.7.26 【源】
Novel stage / original:Absoertia
《理の源》
理の源は強い意志。
"翼持つ娘"の血を引いた者の強い意志を持った願いだけが、自然を動かすだけの力を生む。
その為、歴代の強力な理師は皆、何らかの願いを持っていた。
多くは国を、国にいる大切な者を守る為。
最強の理師と名高い当代の宰相レディスもその一人だ。
(火や水……自然の意志は理師の強い意志に惹かれる)
執務の休憩時間。彼は目だけ書類を眺めているものの、異なる事に思考を向けていた。
(だとすれば、あの子は……キルシェは、何を望んでいるのだろう)
公には白の青年はテルマ王子付きの理師。筆頭の将軍家へ養子に入っているため地位としては申し分ないが、その力はほとんど公開されていない。
だが、レディスは知っている。
青年の理師としての力は最強ともいわれる彼自身と遜色ないほどに高い。ただ様々な理由で表舞台に立てず、本人もそれを望んでいないだけなのだ。
けれど力を引き出せるということは、とりもなおさず青年にはそれだけの強い意志があるということの証しでもある。
(あの子が望んでいるのは、おそらく国のことなどではない)
レディスは思わず沈痛な表情を浮かべる。
「守りたいと思わせるようなことを、私達はあの子にしていない……」
生まれてからずっと出来そこない、欠陥品だと言われ、幼いうちに家族から引き離され……王子付きの理師の傍らで"杭"、諜報員としての活動を余儀なくされている。望む望まないに関わらず。
そんな仕打ちをしておいて、心からこの国を守ってほしいと望むのはおこがましいにもほどがある。
レディスは自嘲の笑みを浮かべた。
「……長い付き合いなのに、私はそんなことも知らない」
その時、扉が外からノックされた。
公務の時間に戻ったのだ。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは白の青年と同じく王子に仕える騎士の青年、ラート・フォン・アウラ。
「王子の使いで参りました」
いつもの通りの無表情で用件だけを淡々と述べてき、レディスも気持ちを切り替えて必要な情報を返す。
「……ではそのように」
「はい」
結果をきちんと文章に認めて使いの青年へ渡す。
受け取った青年は一礼して、そのままレディスへ正対する。
「まだ何か?」
「……キルシェはこの国そのものに好意を抱いてはいませんが、中にいる人まで嫌っているわけではないと思います。だからこそ、守る為にこの場所にいる」
報告の時と同じ淡々とした口調で、ラートはレディスの悩みの元を言い当てた。宰相の目が大きく見開かれる。
「貴方は……」
「キルシェの側にいて私が感じたままの印象です。差し出がましいとは思いますが、少しでも気が安らげばと」
驚いたままの宰相に再び一礼すると、青年は退出していった。
レディスは呆然としながらも、最後の方の思考を口に出していたことに思い当たった。あの礼儀正しい青年なら、余裕を持って到着し、待っていることも十分に考えられる。
ふっと息を一つ吐き出して、彼はかすかに笑みを浮かべた。
「あまり褒められたことではありませんが……今回は見逃しましょう」
重たかった心が多少軽くなったのは確かだったからだ。
宰相殿の持つペンがさらさらと書類の上を滑っていく、アブソエティアの午後。
Fine.