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2010.7.24   【晴】

Novel Stage / original

《Oenanthe No.3》


 


 

 少女は息を切らして森を駆ける。
 後ろから小さな光球がふわふわ飛んだ状態で追いかけるが追いつけない。
「ナンシィ! 落ち着いてってば!」
 幼い少年の声も飛ぶが、パニックに陥った彼女にはそれすらも届かない。


『すまない。少し聞きたいのだが……』

 涼やかなテノール。
 逆光でも輝く金色の髪。
 エメラルドのような輝きを含んだ瞳。
 御伽噺でしか聞いた事のない金糸で縫われた絹の衣装。
 花冠を被った少女が声に振り返ると、目の前にいたのはまるで物語の王子様のような人だった。
(きれいな、ひと……)

『霧が晴れたらここに着いたんだ。君は近くの子かな?』

 夢を見ているような気配のまま、少女はこくん、と頷いた。
 しかし次の瞬間、彼女は慌てて立ち上がった。
 村の外の者と話してはいけない。
 村の外の者は追い出さなければいけない。
 どうみてもこの青年は彼女がはじめて会う人。つまり、外部の人間だ。
(早く、早く皆に知らせなきゃ!)

『この森の中にある村に用があるんだ。案内して……』

 青年の言葉を最後まで聞くことなく、少女は花畑から立ち上がると森へと走り出したのだ。


「皆……皆に、知らせなきゃ……っ」
 それだけを心に走っていた少女に、漸く後ろからの声が届いた。
「ナンシィ、あいつ追ってきてる! このままだと案内しちゃうよ!」
 精一杯叫ぶ小さな光球の声。それは焦りどころかもう泣きそうだ。
「え?」
 耳に入った言葉が少女の意識を捕らえた。しかし、体が急に動きを止められるわけがない。
 がっ。
 急に動きを止めた爪先が木の根を引っ掛ける。
「きゃあっ!?」
「ナンシィ!」
 一瞬宙に浮いた身体が地面に叩きつけられた。それまで全力で走っていた分の勢いも追加され、土の上を滑る。
 少し遅れて彼女の被っていた花冠が先の地面にぱさり、と落ちた。
「う、う……っ」
 身体を打ちつけた痛みに、少女は涙を浮かべた。むき出しだった腕や脚は何箇所もすりむいている。
「大丈夫? ナンシィ、大丈夫?」
 きらきらと輝く光が少女の頭の側を飛びまわっている。
「う、うん……」
 それでも急に倒れたことで彼女のパニックはリセットされたようだ。落ち着いてみれば怪我も大きなものではない。
 少女はゆっくりと立ち上がろうとした。その途端。
「走らせてすまない。怪我をさせるつもりはなかったのだ」
 彼女の体は青年の腕の中に収まっていた。
 瞳が驚きに大きく開く。
 その虹彩には、一度見た御伽噺の王子様のような優しい微笑が映っていた。


 Fine.


 

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