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2010.7.29 【煙】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《舞踏会への招待状》
城壁の外に掲げられた篝火が、その上にある奇怪な杭を浮かび上がらせる。
人の手による、人間の串刺し。
悪魔の寵愛を受けるために自ら隣人を差し出す麻薬に溺れた人々しか、この都には住めないのだ。
往来を闊歩するのは小悪魔に美しさを見せ付ける精魔達、牛頭の魔物など多種多様な魔種。
山脈を出発したルヴニール達はひそかにシヴィラダの城下街、常に麻薬と死の香りが漂う人間達の居住区へと来ていた。
相場の五倍近い料金を払って、全員が入れる大部屋を一室確保する。
「うーん。ここの惨状を見るとなんとなーく山での出来事がわかるねー」
結果的に一番被害の多かったルヴニールが壁に寄りかかって言う。
応えたのはオークの老司祭。
「あの者達にとっては、ここを選ぶかあの場所を選ぶか。どちらもきついことには変わらぬな」
人間を殺し続けるこの都と、痩せこけた山脈。どちらも生き抜くには辛い土地だ。
狂信的ではあったが、皆が一つの教えに従い、規律に則った暮らしを続けていたザフーとは正反対。
「我が友のこととよい、まさしく悪魔の所業、だな」
猿顔の神が納得したように重々しく頷く。
山脈以降、どこか顔色の優れない巫女の少女がなんとか口を開いた。
「悪魔の寵を受けたい人間が多いですから、あまり長居はまずいですわ」
「少し休んだら向かおう」
応えたヒルダの言葉に全員が頷いた。
ルヴニールは僅かなまどろみの中で深く、深く、意識に潜っていた。ぼんやりと水の中に漂うような感覚の中でゆるりと周囲へ視線を配る。
「どこいったんだろう……」
この水のように纏わりつく闇のせいなのか、以前よりここに来た時の感覚が鈍い。
普段なら同じ闇の中でもきちんと隣に座って話が出来た断罪の天使。その存在は確かに心の中で感じるのに、酷く遠いもののように感じられる。
ただおぼろげな感情は伝わってくる。
ぼろぼろになった人間への悲しみと、こんなことをさせた蝿の女王達魔種に対する怒り。それと、眠りが訪れているのに遠い感覚への戸惑い。
「パワーズちゃん……いるのー……?」
そっと声に出して呼びかけてみる。少し経って、探すような気配が感じられた。
重い闇が間を遮ってはいるものの同じ空間にいることは確かなようだ。
なんとなく方向もわかる。
しかしそう自覚した途端、ぼやけていた意識が更に重く沈んでいく。
『ルヴ……ニール……』
(眠れ)
断罪の天使と、聞いたような気がする声がどこからともなく染み込んでいるのを感じながら、青年の意識は更に深いところへと堕ちていった。
『ルヴニール、起きろ』
「ん、んー……?」
今回も目覚めは決してよくなかったが、呼びかける声に加え小悪魔にもぺちぺち叩かれ、ルヴニールは無理矢理瞼を開ける。
気がつかなかったのが不思議なほど、周囲は物々しい雰囲気に包まれていた。
「ごめ、ん。上手く起きれなかったー……何事ー?」
「きっちり先手を打たれました」
青年の前に立っていた暗殺者の少女が警戒を解かないまま部屋の入口を示す。
起き上がったルヴニールの視線が向くと、真っ直ぐ立っていた見知らぬ女性が腰を折って綺麗に一礼する。
細身の身体を襟と裾に赤いラインが入った黒のスーツで包み、頭の上には同色のシルクハットが乗っている。しかしシルクハットからは湾曲した円錐形の角が飛び出しているし、背後には細い尻尾も見えている。
「お休み中に失礼したご無礼をお許しください。ロード・ルヴニールとお見受けします」
嫣然とした微笑を浮かべた彼女は御者の持つ鞭を脇に手挟み、もう片方の手を胸に当てる。
「客人を宴へ招待したいと女王陛下が申されております。どうぞお受けくださいますよう」
怯えるように固まる人間達の外には、白骨の馬車が止まっている。
To be continued...