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2010.7.25 【杖】
Novel Stage / Fun Fiction:LοV
《赤の宴》
思わぬアクシデントにより山脈で足止めされることとなったルヴニール達だが、漸く出発できそうな見込みが立った。
全身を電流が流れたことによるしびれと直接杖に触れていた両手から腕にかけての火傷により動けなくなっていたルヴニールだが、一度目覚めてしまえば巫女の少女やオークの司祭による手当てだけでなく自身の回復能力も使える。
一度覚醒してからの回復は非常に早いものだった。
「起きていたか」
「あ、ヒルダちゃんだー」
外の警戒を終えて戻ってきたヒルダガルドの目の前では、軽く身体をほぐしている青年がいた。
まだ元の軽い動きにまでは戻っていないが、少なくとも移動する上での問題は解消されつつある。
「その様子なら二、三日後には出発できそうだな」
「うん。もう大丈夫だよー」
まだ痛みが残っているはずなのだが、にこにこ笑みはいつもとまったく変わらない。
様子を確認したバーサーカーが今後の予定に考えを馳せていると、ふいに青年からの問いかけが投げられた。
「ねー」
女性が振り返ると、既に彼は動きを止めていた。
「ここって、自然のものなだけじゃないよね。多分、あの襲ってきた人達が使ってた場所だよねー?」
「そうだ。何か気になるか?」
「あの人達は何で襲ってきたのかなーって。物取りって感じじゃなかったし、だとしてもこんな所じゃやってけないよねー」
何も気付いていないようなふりをして、実はしっかり考えている。この青年のよくわからないところでもある。
既に慣れた違和感を覚えながら、事情を話していなかったことに気付いたヒルダは、雪原でセラフたちが話していた内容を一通り話した。
人間の手で人間を殺させる蝿の女王の所業を。
「……ふーん。それで戻りたかったってことなのかなー」
「そのようだ」
青年はよくわかっていなさそうに首を傾げる。直に興味を失ったのか、次に続く言葉はまた違う話題についてだった。
「あとなんだけど、私の杖、どうなったのかなー?」
雷が直接落ちたという杖。この世界に落とされた直後、襲撃してきたアルヒアンゲロスから奪った金色の錫杖だ。
その問に、ヒルダは直接現物を渡すことで応えた。
金色は鈍く鉄にも似た色になり、左右に広がった天使の翼のような飾りは焦げおちている。それでも辛うじて杖としての形状を保っていた。
「よく砕けなかったねー……」
普通落雷が直撃すれば、粉々になっていてもおかしくない。ヒルダも同意するように頷く。
「確かに不思議だ。ただし、それほど持つとも思えんぞ」
「うん。わかってるー。でもすごいねぇ」
ルヴニールは変わったバランスを確かめるように何度かそれぞれの手で振り回す。杖そのものの重さが軽くなったのもあるが、先端飾りがなくなった分もある。
「まだ寝ていろ。数日中には出発するんだ、少しでも休んでおけ」
「はーい」
一度肩をすくめるが、大人しく杖を岩壁に立てかけて青年は再び横になった。大して時間もかからず穏やかな寝息が聞こえ始める。
城壁に連なるは串刺しの屍
路地に漂うは麻薬と死の臭い。
街角に響くは悪魔を讃える歌。
かつては大陸屈指の芸術の都だった魔都シヴィラダ。
今、その地を飾るのは奉げられた贄の赤き滴のみ……。
To be continued...