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2010.7.20 【沖】
Novel stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《海の思い出》
「……紫さん」
バンガローから歩いて数分のすっかり夜も更けた浜辺。
紫さんの部屋に明かりがついていなかったので見に来てみると、昼間の明るい花柄の水着とは違う、落ち着いた黒のサンドレスを纏う紫さんがビーチチェアに座ってぼんやり空を見上げていた。
「和君は?」
「明日早いし、運転手だから先に寝たよ」
「そうか」
僕の作成者はこちらに視線だけ動かして問うと、また空を見上げた。そのビーチチェアの隣に立って、空へ向かう視線を追う。
真円を描く月。
「……なあ、思い出さないか」
紫さんがぼんやりと星を見上げたまま、唐突に呟いた。
「沖縄、行ったときのこと」
「……はい」
同じ空を見ながら、僕も同じことを思い出していた。
北の大地に研究を抜け出して行った時は僕と紫さんだけで、帰って来てから皆に怒られた。
それからしばらくして、僕達は紫さんの研究集会に同行して沖縄へ行った。心さんは助手として、僕は研究成果の一部として。
公務で、更に環さんと心さんの二人がかりで叱られたために紫さんがセーブしていたこともあり、珍しく心さんもはしゃいでいた。
日中は紫さんや他の錬金術師の人たちの発表を聞いて、夜は砂浜へ出て花火をしたり、星を見上げたり。
集会は一週間程続いた為、時には昼間抜け出して水族館に行ったりもした。
「あの時も、こうだったな。真面目な心はさっさと寝て、私とお前は抜け出して」
「南十字星が見えるから、って、チェアを持ち出してずっと探しましたね」
「ああ……結局、別の島じゃないと見えないってことだったんだが」
ふう、と紫さんが一つ溜息を吐いた。
紫さんもいろいろ思い出しているようで、その表情はあまりいいものではない。
「……大丈夫ですよ」
僕は紫さんの暗くなる表情を見て、あえて明るい声を出した。
「心さんは強い人ですから。どこにいても元気でやっています!」
励ますようにしていった言葉ではある。けれど、これは僕自身も信じていること。
心さんは僕の師匠で友達で、どんな逆境でも夢を諦めたりしない、心のとても強い人。
だから、僕は断言する。
「……そうだな」
すると、紫さんは漸く笑ってくれた。
「私の助手を勤められた心が、そう簡単にくたばる訳がないな」
そしていつも通りの元気な表情を見せてくれた。
気を取り直したように、椅子の上から砂浜の上へと勢いよく跳び降りる。舞い上がった砂はさっと手で払っていた。
「さて、私達も寝るか。菘」
「はい」
僕はビーチチェアを片付けながら、笑顔で返した。
Fine.