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2010.7.15 【赤】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《赤き斜陽》
泥のように重たい眠りから、ゆっくりと意識が覚醒していった。寝起きのせいか体がうまく動かない。
「ん、うー……」
青年は気だるげに首を巡らせて周囲を確認する。そんな簡単な動作すらひどく重く感じられた。
鉱石分の多そうな固い岩壁が、大人が十数人立って入れそうな空間を形成している。
ルヴニールが寝かされているのは壁際で、体の下には粗末な布が何枚か重ねられて敷いてあった。また、別の壁際には誰のものかもわからない荷物がまとめて置いてある。
人の手が加えられているのは置くために岩壁が削られた所に光っているランプが証明している。
ほぼドーム状のこの場所への通路は一か所。その先に光が見えないところを見ると、直に外へ出るわけではないようだ。
一通り観察を終えて、青年は言った。
「……ここ、どこー?」
『まだ山の中だ』
応えは頭のすぐ近くから聞こえた。頭の中に響いたと言ってもいい。
紅い瞳が出来る限り頭上へ向けられる。
さかしまに映る、枕元に座った黒翼の男性。
「あ、カイムおはよー」
そのまま見上げて、青年は言葉を続けた。
「なんで寝てるのかな、私ー?」
ルヴニールは一瞬にして天から降り注ぐ光に打たれたため、自分が倒れた原因を知らないのだ。
『雷がお前の杖に落ちた』
通路の方へ視線を向けたまま男性は応える。
すると、相変わらず動けないままルヴニールは何度か頷いた。
「うわぁ……それで身体動かないんだー」
ぶんぶんと首を振るのが精一杯でその手はあまり動かず、身体を起こすことが出来ないらしい。
『それだけで済んで幸運だったな』
「そういえばグレムリンは無事ー?」
小悪魔は基本的にルヴニールから離れようとしない。あの時も、小さな身体で踊りながらそれほど遠くへは行っていなかった。
『多少吹き飛ばされたが、な』
視線を通路の入口から外して示された先には、荷物の上に載ってぐっすり眠っている小悪魔の姿。
「大きな怪我はないみたい、かな。よかったー」
そう言うと、青年は横へころんと転がった。うつ伏せになったはいいが、結局起きられない。
『何をしている?』
「外を、見てこようと、思ってー」
じたばたじたばた。
匍匐前進よりも進まないその姿に、男性は一つ溜息をついた。
『……暴れるなよ』
そして倒れたままのルヴニールをひょい、と小脇に抱える。寝かせる為に戦闘用の防具を外していたので、ただでさえ軽い青年の身体は簡単に持ち上がった。
「あはは。お手数をお掛けしますー」
身体が地面を離れると青年は手足をばたつかせるのをやめた。
大人しく抱えられている青年を連れて、黒翼の男性は広い空間から通路へと歩き出す。
通路は曲がりくねっていて、何度か左右に折れた後に前と左右へ道が分かれている十字路に出た。
そこを迷うことなく左へと曲がると、強い光が岩肌へ差し込んでいた。
洞窟の入口は少し上り坂になっていて、下からは見えにくい。また側には盾に出来そうなくらい大きめの岩があり、今は見張りなのかフィーギーナが岩の陰に座っていた。
「フィーちゃんおはよー」
「おはようございます、ルヴニール。もう気がついたのですね」
「うん。おー綺麗だねー」
暗殺者の少女といくつか言葉を交わすと、青年はなんとか顔を上げて外を見下ろした。
洞窟の前は人が二人並べる程度の道があり、その向こう側は切り立った崖となって視界が開けていた。
赤い斜陽に照らされているのは、離れた眼下にある二つの建物。
シヴィラダとルクサリア。蝿の女王に支配された魔界王国の中心地。
こんなに離れていても、お世辞にも綺麗とは言いがたい空気は届いてくる。
「結構来たんだねー」
「はい。しかし、少なくともあなたの身体の様子が落ち着くまでは休みますから」
「流石にいつもカイムに抱えてもらうわけにはいかないからねー」
いつもの通りにこにこと青年が笑みを浮かべながら言うと、男性と少女、両方ににらまれることになった。
思っていたより心配されてたことに方をすくめて、青年は再び大地を見下ろす。
これから向かうべき地を見定めるように。それは不安か、予感か……。
To be contined...