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2010.7.18 【解】
Novel stage / original:Absoetia
《解放》
焔が、渦巻いていた。
赤き轟音が民家も道も巻き込んで火の粉の雨を降らせている。
親を探し、子供を捜し、逃げ惑う人々は知らない。
この炎が、たった一人によって巻き起こされていることを。
天への柱となっている巻き上がる炎の中心。火に抱かれるような空で、黒い人影が膝を抱えてただ時を待っていた。
黒いヴェールや長い黒のドレスが、暖められて生じた上昇気流を孕んでばさばさと翻っている。
「踊れ……炎よ。風よ」
目を閉じたまま時折呟かれる言葉が、炎を意図的に動かしていく。
火事で逃げ惑う人々とは違う、慌てた様子の中にも殺気を込めた者、逃げようとしない者を狙って赤い舌が這いよって行く。
彼らは一般市民とは違う意味で焦っている者達だ。
敵対するものを火に巻き、事故に見せかけて殺すはずが、こんなに燃え広がってしまったことに。
「その手に包め……」
また一人、見つけた不審者を白い指が示す。すると、応えるように渦巻く炎の一筋が揺らめいてその不審者を包み込んだ。
悲鳴は木材が炭になっていく音にかき消された。
それを最後まで見届けることなく人影は再び膝に顔をうずめた。
「踊れ……」
崩れ落ちる家。
泣き叫ぶ子供。
焼けて行くのを呆然と見る避難民。
巻き込まれた人々の悲痛な叫びから目を逸らして、黒い人影はあくまで火事に見せかけて徐々に街を焼いていく。
ちょっとの火の不始末で、ちょっと風が吹き込んで広がってしまっただけ。
火だけは消えないように語りかけながら流れに任せ、それでも無関係の人間はなるべく殺さないようにそっと干渉していた。
時折、不審者の中には人影に気付いて飛び道具を使ってくるものもいる。だが、あるものは風に流され、あるものは火に巻かれ燃え尽きる。
そして、撃った者はすぐ炎に包まれるのだ。
「……全てが燃えるきるまで」
ぼうっ!と家が爆ぜた。
「その息吹を……」
黒い人影はその力をさらに解放した。山の方から急に強い風が吹き込み、炎の渦が更に大きくなる。
多くの家が、暗躍する者達が、次々と赤き破壊へ包まれていく。
その光景を黒い人影が何の感情も篭らない瞳で見ていた。
「……吹き続けよ」
紅い瞳に映る赤い炎は、全ての建物を飲み込むまで消えることはなかった。
そして人影を包む炎が消えると共に、人影すらも消えていったのだった。
Fine.