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2010.7.22 【湖】
Novel Stage / Fun Fiction:???
《Nex》
盗賊団を討伐するための大掛かりな軍隊が湖の側で野営を行っていた。
盗賊団自体がかなり大きいこともあるが、何より広域を荒らしていること。
更に襲った村や町は金目の物から食料まで奪われ、人々は売られるか凌辱されるか殺され、最後には全てを焼き尽くされる。残るのはただの荒地だけという、襲撃された全ての場所で徹底的に行われた残虐性も、この規模を形成するに至った要因の一つであった。
もっとも、細かい目的は俺には関係ない。戦闘と、見合う報酬が貰える場所に命を賭ける。それが傭兵。
この部隊にもかなりの数が雇われていて、統率された真面目な兵士とはそもそもの意識が違うせいか、特に休憩の時などは思い思いに過ごしている。
俺もその例に漏れず、立ち並ぶ天幕を抜けて湖の畔をぶらついていた。
兵士たちの野営地に近い部分は明々と照らされているが、それ以外の部分は月ひとつない夜そのままの姿。あまり風も吹いていないので湖面も静かなものだ。
俺はその戦いの最中にも似た空気を楽しみながら、湖を一周しようとした。
しかし、途中で足を止められた。
「どなたですか」
俺が気付くよりも速く、向こうから誰何の声がかかる。視界内に入るところまで近付くと、それは見覚えのある青年。
傭兵として雇われている者の一人だ。
ただ、一見して彼が傭兵だと気付くものはそういない。暗闇の中でもわかる白い肌の手足は細く、薄い蜂蜜色の髪が緩やかカーブで縁取る頬は細いというよりは痩せこけているという表現が近い。
「よう」
俺は軽く手を上げて答えた。
「……貴方でしたか」
彼は見覚えがあることに気付いたのか、向けられていた顔が逸らされた。ただし手にしている大剣は手放さない。
「いつまでもこんなところぶらついてると、また倒れるぜ。ネクス」
「……お気遣い、ありがとうございます」
淡々とした言葉が紡がれる。抑揚のなさはまるで今の湖の水面のよう。
「いいけどよ」
俺はそのままの距離を保ったまま立って待っている。
返事は、ない。
もっとも、彼はきちんと話すだけでかなり珍しい部類に入る。そもそも俺が呼んでいる呼び名すら、本名ではない。
傭兵が通り名を名乗るのはよくあることだが、彼は名乗らなかった。
今俺が呼んでいる呼び名は、本来その手にある大剣に付けられた銘。
"Nex"……殺人、破滅といった不吉な名を持つ大剣をその細い両腕で振りまわす。
ほんの数週間前まで一般人だった彼は、傭兵として契約してはいるが目的は俺達とまるで違う。盗賊団に恨みを持ち、力の有用さを売り込んだが故に戦いへ身を投じた盗賊の被害者の一人。
「……貴方も、早く戻られた方が良いかと」
耳元を過ぎった声に振り返ると、彼は立ち上がって俺が来た方向へと歩き出していた。
普通、よほど訓練を受けていない限り、人の動きには気配がある。
それが目の前にいても感じられないのは……彼がからっぽだからなのだろうか。
「……難儀なことだぜ」
心に恨みしか残っていない青年に同情しながら、俺は暫く彼と同じように湖畔を眺めていた。
さあ、明日は人殺しだ。
Fine.