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2010.7.12 【金】
Novel stage / original:Abyss of Time
《金色の懐中時計》
心さんが常に持っている物がある。
それは首にかかっている細い金の鎖の先に繋がっている懐中時計。
蓋や螺子も鎖と同じ金色で、蓋にはまったく飾りがない。
ただ一つだけ。螺子の上の平らな部分に刻まれているLの文字が、唯一の飾りとも言えるかもしれない。
「どうも、私が造られた時からあるものみたいなの」
僕が尋ねた時、心さんは苦笑しながら言った。
そして、蓋を開けて中を見せてくれた。本来数字が書かれているはずの文字盤には数字は一つもなく、ただ目盛りだけが刻まれている。また針は長針に相当する一本だけがあって、ほとんど動いていないように見える。
「紫さんが気になって調べてみたら、一応時計なんだけど、普通のとは違うんだって」
ぱたん、と蓋を閉じて、心さんは言葉を繋ぐ。
「これは、ある時を刻む為だけにあるんだって……六億半くらいの秒数を刻む為だけに」
僕は即座に秒数を時間に換算する。一年がほぼ三千万秒にあたる。
「六億というと、十八年か十九年くらいですか?」
「ええ。そうよ。紫さんは十八年じゃないかって言ってたわ」
紫さんは窓際で空を眺めながらそう応えた。
「私には紫さんが起動させてくれるまでの記憶がないから、なんなのかはわからないけどね」
あまり詳しく聞いた事はないが、心さんは廃棄された錬金術師の研究所の中で眠っていたらしい。発見したのが調査隊に同行していた紫さんだったこと、紫さんの能力が高く買われていたこともあって、心さんは紫さんが預かる形になったということだ。
紫さんによると、僕も少し変わった造られ方をしているが、心さんもいわゆる普通の造られ方をしていないらしい。
一見不思議な部分がないように見えて、ところどころにブラックボックスがある。そういう言い方をしていた。
「ただ……あまり、いいものだとは思えないのよね。本当に感覚でしかないのだけれど」
心さんは一つ溜息をつくと、懐中時計をスーツのポケットの中へとしまった。
「外せないのですか?」
「ええ。懐中時計を繋ぐ鎖がどうしても外れないのだそうよ。いいの、困ってないから」
立ち上がった心さんはかけてあった白衣を翻す。
きっちり袖を通すと机の上においてあったファイルを左腕に抱えた。
「さあ、すずなくん。そろそろ休憩終わりだよ」
「はい」
それから心さんがこの話題に触れたことはない。
けれど、きっと関わってくることになるような、そんな気がした。
Fine.