365 letters 2010.7.30 忍者ブログ
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2010.7.30   【自】

Novel stage / original

《Oenanthe No.4》


 


 

「怪我はないかな」
 少女を抱えた青年は、少女が頑なに家の場所を教えようとしなかったので花畑の泉の側まで戻ってきていた。
 彼女の手足についた土は丹念に洗い流されいる。
「……その、すみません」
「いや、急に声をかけた私も悪かった。驚いただろう」
 ただ謝る少女に、青年はそっと彼女の頭を撫でた。
「すまない」
 たったそれだけのことに、少女は頬を真っ赤に染めた。
 そして非常に慌てながら立ち上がる。あまりの勢いに隣で座っていた青年が驚いたくらいだ。
「あ、あのっ」
 コイフで懸命に赤い頬を隠しながら、彼女は花畑の向こうを指差した。
「こ、この方向に真っ直ぐ行ったら、ま、まだ、帰れます」
「お嬢さん……」
「霧が再び発生するまで、も、もう少しかかるんです。だ、だから、まだ大丈夫です!」 
 どんなに素敵な人でも、この男性は森の外の人だから。
 彼女は完全に自分の心が惹かれてしまう前に自分から離すことにしたのだ。
「……そうか」
 男性はすっと立ち上がると、そのまま少女の前でしゃがんだ。
「貴女の努力を無駄にしてはいけませんね」
 優雅な仕草で少女の手を取ると、その甲へそっと口付ける。
「あ、あああああのっ!?」
 無論、本の中で読んだことしかない彼女には混乱を助長させるだけだった。
 青年はわたわたと対応に困る少女の両肩を軽くぽん、と叩いた。
「ひゃうっ!?」
「……お嬢さん」
 少女の瞳に映る青年の瞳は真っ直ぐに彼女へ向けられている。
「もしも、貴女が望むのなら」

 私は、いつでも貴女を自由にして差し上げたい。

 ただ立ち尽くして青年を見送る少女は、その言葉の意味を、こめられた願いを悟ろうとしていた。


 Fine.


 

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