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2010.6.7 【破】
Novel stage / Fun Fiction:LοV
《闘争と死》
一瞬にして巻き上がった雪煙が海神、わだつみとルヴニールを除くその場に立つもの全てを吹き飛ばした。
「うわっぷ」
青年は咄嗟に頭部を庇う。
その腕を下ろした時、視界に入るのは一面の白と竜の長い紺青の身体だけであった。
「これでお主の仲間は介入できぬ。我が友と同様に、な」
「どっちかが死ぬまで二人っきりってことー?」
あんまり嬉しくないなぁ、とにこにこ笑いながら、彼は柄の左右から刃が出ている斧を手に取る。
青年とて戦いの経験を伊達に積んでいない。
この竜はどちらかが死ぬまで、白く聳える壁を解く気はないだろう。
諦めたくないのに諦めている者が持つ、どこか自暴自棄な決心。
「我が友がわざわざ連れてきたロード。その力、見せてもらおう」
それでも一縷の望みを抱いている偉大な存在。
強さゆえの絶望に落ちる白い瞳を見上げ、ルヴニールは。
「熱烈アプローチだねぇ……仕方ないっかー」
普段通りの紅い瞳で、笑っていた。
「やりすぎちゃったら、ごめんね?」
白壁の向こう側、文字通り締め出された者達はただ渦巻く白の闘技場を見守っていた。
雷も斬撃も、アルカナの力を減衰させる能力さえも通じなかった壁。
もう彼らに出来ることは待つことしかなかったのだ。
時折、強く吹き荒ぶ風をすり抜けて聞こえてくる何の音ともつかないノイズだけが内部を知る頼りだった。
「……まだ続いているようですね」
「簡単に終わっては立つ瀬がなかろうて。のぅ、猿田彦とやら」
遮る吹雪から視線を離さない暗殺者の少女。その傍らではオークの司祭が案内人へと話しかけていた。
「あれは相当な力を持つ、神族に連なっていたとておかしくないものじゃろう。なぜあれほどまでに追い詰められている?」
猿田彦が海神の友人であるのなら、友人を助ける為に手を貸すのはおかしいことではない。
だが、なぜ助ける必要があるのか。
その問に、行者姿の神は沈黙を返した。
「確かにこれは取引。お主に答える義務はない。じゃが、訳もわからず命を預けている儂らに説明は欲しいところだと思うがの」
更に言い募るオークオラクル。
それでも猿田彦は口を開かない。采配を握り締めたまま、苦痛に耐えるようただ微かに聞こえる戦いの音に耳を澄ましていた。
「ここまできてだんまりか」
ヒルダも問い詰める側に回る。
すると、彼らが集う場所と白壁を挟んで反対側から回り込んでくる影があった。
「その方は詳しい事情を何もご存知ないのです」
巨大な巻貝を背に、赤き剣を右手に、肩や腕に貝のような質感の防具が覆う均整のとれた姿の男性。その下半身は海神よりも濃い青の鱗で覆われた魚の尾になっている。
わだつみ達とはまた異なる神話では神の一柱、トリトン。
「我らが願ったのです。あの方、わだつみの解放を。蝿の女王との取引に苦しむあの方の解放を」
「取引?」
「はい」
一行の前に進み出ると剣を収め、敵意がないことを示した上で彼は言葉を続けた。
「ルクサリアの女王が持ちかけたのです。あの方が女王の使い魔となる代償に、贄となる人間を半分に減らすと」
「なんと……」
顔を上げた行者姿の神が苦しげな面持ちになる。初めて聞いた使い魔へ落ちた理由は、あまりにも痛ましいものであった。
「なるほど、な」
思い当たる節のあるヒルダはそれ以上言葉をつなげることなく、再び白壁へと視線を戻した。
中が見えない吹雪、のはずの。
「……おい」
彼女は周りへ注意を喚起した。一斉に何対もの視線が吹雪へと集まる。
絵の具で塗ったように白かった円形闘技場が、ゆるゆるとほどけていく。
吹雪が収まってきているのだ。
そして。
彼らの目に入ったのは、赤。紅。朱。
「撃破完了。終わったよー」
青年がにっこりと笑い、紅が一つ減った。
To be continued...