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2010.6.12   【蔵】

Novel stage / original:Two Little Stars

《おたから》


 


 

 がらがらがらっ。
「暗いにゃー……」
「埃っぽいにゃー……」
 重い木の扉を押し開けたネコの仔達がけほけほと咳き込んで文句を言った。
 それでも興味が勝つのか、大量の箱や農具の詰まった中へ視線を走らせている。
「ほら、お前ら中に入れ。運べないだろ」
 後ろについていた青年が双子を中へと押しやった。
 昼間の暑いさなかであっても薄暗い。ここは伊藤家の蔵である。
 家庭菜園をするようになればどうしても道具や堆肥が必要になる。特に家族が増えた今回は土地はあるので少し多めに植えている。
 そこで、人数が多かった頃に使っていた道具を引っ張り出そうと蔵を開けたのだ。
「こんなところで何するにゃー?」
 ステラが振り返って青年を見上げる。博は奥の方へと向かいながら、長い柄のついた道具が置いてある方を指差す。
「とりあえずはその辺のを出してくれ。今、一組しか出してないからな」
「わかったにゃ!」
 元気よく返事をしたのはアンテール。ネコの仔達はてててっと小走りに壁際へ走り寄ると、長柄の鍬などを抱える。
「一度に持ってこなくてもいい。転ぶぞ」
 博が木枠を運び出しながら上手く運べないでいる双子へ注意した。ぴこぴこと耳を動かしてネコの仔達は返事をした。
「わかったにゃ」
「りょーかいにゃ」
 ステラとアンテールはそれぞれ数本の道具を運んでいる。長柄のものはバランスが取りにくく一度に運べる量はそれ程多くない。
「……そのうち本当に転びそうだな」
 数は多いものの一度に運べる数の多い博は、三度程の往復で必要量を運びきる。
 疲れてくるだろう双子を考え、台所で作っておいた冷たい麦茶を用意した。
 しかし、待てども戻ってくる気配はない。
「何やってるんだ、あいつら」
 菓子鉢まで出したところで、青年は漸く双子を迎えに行くことにした。
 行く気になればあっという間。扉が開けっ放しの蔵の中からは、くすくすと笑う小さな声がしていた。
「ちっちゃいにゃー。ちっちゃいヒロシにゃー」
「ネコ達と変わんないにゃー。お家も変わってないんだにゃー」
 博が覗き込んで見れば、ひっくり返したと思しき箱の側で地面に大きな本らしきものを開いて見ている双子がいた。
「お前ら」
 入口から青年が声をかける。
 大して大きな声でもないのに、双子達は飛び上がりそうなくらいに驚いて彼のほうを見る。
「んにゃあっ!?」
「び、びっくしたにゃっ!?」
「戻ってこないから何やってるのかと思えば」
 呆れたように溜息を一つついた青年は、転がっている箱の土を払って蓋を閉めた。
「ご、ごめんにゃ! 出てきたから気になったにゃ!」
「見たことなかったにゃ! 面白そうだったにゃ!」
 わたわたと言い訳をするネコの仔達から冊子も取り上げて表紙を軽く叩く。
「……いいから先ず運べ」
「は、はいにゃー!」
「にゃ、にゃあああー!」
 低く言われた言葉に、双子は慌てて道具を手に駆け出していった。
 その背を見送りながら、青年は懐かしそうに冊子と箱を眺めた。
「そういや、ここに仕舞ってあったんだよな……」

 脅えていたのはどこへやら。
 仕事を終えてお菓子をぱくつく双子の前に、青年は先程取り上げた冊子を置いた。
 ステラとアンテールは手を止め、きょとんと青年を見上げる。
「み、見てもいいにゃ?」
「もう怒ってないにゃ?」
「やることやらずに投げたら止めるけどな。別に今は休みだからいいだろ。ただし、汚すなよ」
 最後の念押しにこくこくと双子は頷き、急いで手を洗ってから頁をめくる。
 片方の頁に最大四枚の写真が貼り付けられた冊子。
 当事者である博もすっかり忘れていたアルバムだった。
「この人知らないにゃー」
「しわしわにゃー」
「俺の祖母さんだよ。ここの土地の持ち主だった」
 時折発せられる疑問に答えてやりながら、青年はこっそりと棚に仕舞ってあったあるものを取り出した。
「あ、今のヒロシにちかいにゃー」
 貼ってある写真は青年がこの土地から離れていた大学期間のものもある。母親か父親が成長記録として送っていたのだろう。
 段々見慣れた姿になっていく写真の博から双子達の関心が離れていこうとした時。
「おい」
 彼が双子に声をかけた。
「なんにゃ?」
「にゃっ?」
 ネコの仔達が振り返ったと同時に。
 ぱしゃっ。
 フラッシュが光った。
「にゃん!?」
「まぶしいにゃっ!?」
 びっくりして動きの止まる双子を気に止めず、青年は手にしたデジタルカメラを小型のプリンターに接続する。
 かちかちといくつかボタンを押すと、今取った写真が排出された。
 ステラとアンテールのびっくり顔。
「うん。よく撮れてる」
「飼い主何するにゃ!」
「そうにゃ! ネコ達びっくりしたにゃ!」
 抗議するネコの仔達に笑いながら博はアルバムの頁をめくる。
 博が大学を卒業したときの写真を最後に、頁は空白のままだ。
「ほら」
 青年は双子に今撮った写真を差し出す。
「にゃ?」
「空いたままなのももったいないからな」
 博はあと写真を貼るだけ、というところまで双子に示す。
 双子は顔を見合わせた後、アンテールがおそるおそる空白の頁に写真を置いた。
 青年が綺麗に貼り付けると、空白の頁が一つ減った。
「なんか……楽しいにゃ!」
「ヒロシと一緒にゃ!」
 完成するとよほど嬉しかったのだろう、双子達がはしゃぎ始めた。
「もっと写真撮るにゃ! もっともっと貼るにゃ!」
「そうにゃ! ネコ達の写真もっと増やすにゃ!」
「また今度な。ほら、先に畑仕事だ」
 両腕にネコの仔達をぶら下げながら、博は外へと向かう。
 その表情は本人も気付かないうちに柔らかいものになっていた。


 Fine.


 

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