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2010.6.11 【鷹】
Novel stage / original:Absoetia
《Schnell》
王城、中庭。
騎士の青年が腕を空に向かって振り上げる。
ばさばさばさっ。
その腕にとまっていた大きな翼を持った鷹が、ぐるりと大きく円を描いた後、空高く羽ばたく。
優雅なる彼女は風に乗って王城のシンボルたる塔を、数々の尖塔を、城壁の上を、毅然と飛び回る。
「すごく綺麗だ」
その姿を騎士の隣に立つ少年が見上げている。浮かぶ表情は憧憬。
彼女の飛行は速く、彼の目には追いきれていないことも、彼の憧れを掻き立てる要因になっている。
しかし、やがて優雅な羽はまったく見えなくなる。
目に見えて少年の表情が曇った。きょろきょろと見回して、小さくなっていた鳥の姿を探す。
「見えなくなってしまったな……呼び戻せるのか?」
「はい」
青年は一つ頷くと、持っていた銀色の細い笛を空へ向かって吹き鳴らす。
ぴぃっ。ぴー……っ。
鋭い笛の音が頭上一杯へ響き渡る。
余韻がしばし続き……。
ばさばさばさっ。
大きな羽音が空から帰ってくる。
「あ、戻ってきた」
少年の表情がぱあっと晴れた。
滑空して騎士の青年の腕へ降り立った鷹。彼は興味深そうに彼女の美しい毛並みや鋭い嘴や爪を見た。
「ラートはシュネルと長い付き合いなのか?」
「雛から育てましたので五年ほどです」
言いながら、ラートが真剣な眼差しの少年の肩へそっと優雅なる彼女をお連れする。
「え?」
ごく自然な動作に王子は一瞬きょとんとした。その硬直が溶ける前に青年が注意する。
「あまり動かないでください」
「う、うん……うわぁ」
ハンターでもあるご令嬢は導かれるままに少年の肩へ降りた後は毛繕いに忙しい。
「人に慣れているのは、ラートとの付き合いが長いせいかな」
彼女の邪魔にならないよう気をつけて様子を窺う少年が微笑んで呟いた。
「……かもしれません」
ラートは一瞬の逡巡の後に頷いた。
その沈黙を誤魔化すように、王子の肩のご令嬢が小さく鳴いた。ぱさぱさっと軽い羽ばたきと共に鷹はラートの肩に戻る。
「楽しかったよ。ありがとう、ラート」
「今度は鷹狩りにでも」
「うん。そうしよう」
普段通りのポーカーフェイスに戻った青年へ、少年は満面の笑みを浮かべた。
青年は知っている。
理師はあらゆる天地の存在に好かれる。人、という異端の存在を除いて。
もしも誇り高きご令嬢が止まり木を許した原因がその特性のせいだとしたら……。
Fine.