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2010.6.15   【遊】

Novel stage / Fun Fiction:LοV

《野の残雪》


 


 

 きぃきぃ鳴く小悪魔が雪原の雪をすくい上げて、まき散らす。ぱあっと広がる小さな結晶はきらきらと輝きながら降りて、その輝きにまたはしゃいで喜ぶ。
 大地を覆う雪はまだ消えないが、吹雪によって閉ざされることはもうない。あとは赤い空の元でも徐々に溶けていくだろう。
 名残を惜しむように駆け回るグレムリンの上に、ばさっと雪が被せられた。
「りむりむーあんまり離れないようにねー」
 にこにこと笑いながら雪を滑り落としたのは紅い瞳の青年。吹雪を収めた張本人の人間のロード。
 そんな威厳など微塵も見せず、彼は懐いてる小悪魔と子供のように遊んでいた。
 いつもならここまで遊びに入る前に誰かの制止が入る。
 けれど、止めるはずの彼女はどこか屈託した思いを抱えていた。
 人間の何十倍もの大きさの海神、わだつみ。ルクサリアを支配する蠅の女王の使い魔にして、この地を氷雪の嵐で閉ざし、家の中にいた村の住人さえ凍り付かせる強大な力を持つ者。
 それをこの青年が一対一で倒したのだ。単純な肉弾戦を苦手としている彼が。
「……ねー」
 だとすれば、普段の彼は力を温存していたとでもいうのだろうか。
「ヒルダちゃんー?」
 近づいてきた気配。彼女は反射的に愛刀を構え、突きつけていた。
 きゅぃ、と小悪魔の怯えた鳴き声。
「ひ、ひるだちゃんがおこってるー」
 同じように怯えて逃げ出し、黒翼の男性の後ろに隠れた青年。一人と一匹でぷるぷる震える様は、ただの一般人にすら見えてくる。
「あ……すまない」
 漸く我に返ったバーサーカーは一対の長刀を引いた。
「そんなに怒られる程遊んでたかなーかなー」
 恐怖状態継続中。
「いや、そういう訳ではないが……」
 困ったというよりは気まずい、といった雰囲気の中、古き友を見送り、その主を見極めるためにと同行を申し出た猿田彦がさりげなく口を挟む。
「その女人はお主に聞きたいことがあるのだよ」
「そうなのー?」
 青年は隠れていた男性の背から顔を覗かせる。
「だったらいつでも言ってくれればいいのにー。答えられることなら答えるよー」
 完全に出てくるわけではないが、ひらひらと手を振る姿は怒りを通り越して呆れすらもよおす。
「……何でもない。考え事をしていただけだ」
 一つの溜息の後に言葉を繋げ、ヒルダは先頭を切って歩き始めた。
 今聞くべきことではない。少なくとも、当人の友人である猿田彦の前では。
 そう考えていた。
 しかし。
「どんってなってざざーんって流れてぴょいって飛んでもう一回どーんってやっただけだよ」
 酷く意味不明な擬音だらけの説明が、後ろから飛んできた。
「……何?」
 振り返ると漸くカイムの陰から出てきた青年と、柔らかな表情で見守る行者姿の神。
「儂も知りたかったところだ。気を使う必要なぞない」
「何で私が勝てたのか、気になったんでしょー?」
 いつでも解説いたしましょう、とまるで舞台の前座を務める道化のように大仰な身振りで一礼する。ちなみに手の中にいた小悪魔はフィーギーナへ預けられている。
「待てルヴニール、私は……」
「白銀の円形闘技場、舞台に上がるは巨大な紺青の美しい竜とちっぽけな白い人間。観客がいたならば、誰もが竜の勝利を確信したでしょう」
 反応の遅れたヒルダの制止を聞くことなく、くるくると回りながら青年は戯曲のように語り始める。
「氷雪の混じる吐息。鋭い五本爪。人間の胴回りを軽く越える尾。いずれも致命傷になりうる恐怖。しかし誇り高き海の神は戦いを望んだのです。公平まで行かなくとも機会を、と」
 笑みを浮かべた道化は外套を翻し、踊り続ける。
「それが吹雪の闘技場。正々堂々の戦いと自らの吹雪を封じる二つの意味を持った白の結界だったのです」
「あれは……その為だったのか」
 止める事も忘れて聞き入る観客を前に、にこにこと笑う道化は更に言葉を続けていく。
「無論まだ海神には牙も爪も尾も健在。牙も、爪も、尾も、何度も人間を襲います。海神の津波がちっぽけな人間の動きを縛ります」
 楽しそうだと見て取ったグレムリンが丁度駆け寄り、青年へ向かってジャンプ。
 しかし、ルヴニールはひょい、と跳んでかわして、その小さな身体を後ろから抱えた。
「ところが、海神の一撃は全て近付かなければいけません。更に、こうして大きな隙を与えてしまうことにもなるのです」
 道化は変わらぬ笑みのまま、戦いに用いていた片手斧を取り出す。海に属する者達により威力を発揮する雷を纏った斧。
「ちっぽけな人間の僅かな一撃。それも積み重なれば、巨大な竜をも倒す」
 きらん、と斧の刃を光らせた青年は、直に斧を収めた。
「つまりは、こーゆーこと。ご理解いただけたかなー」
 そして道化のような仕草を止め、ぴっと腕を広げて止まったのだった。
 答えは誰からともなく始まった、まばらな拍手で返された。


 To be continued...


 

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