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2010.6.10 【妖】
Novel stage / Fun Fiction:ととモノ。
《一枚 No.2》
無理に動いたせいか、目の前が真っ暗になった。
目が見えなくなっただけじゃない。手や足が動く感覚も全くない。
足手まといにはなりなくなかったはずなのに、動けなくなるなんて嫌になっちゃう。
……上手く、逃げてくれたかな。あたしのことは、余裕があったらでいいから。
出来れば一緒に戻りたかったけど、でも。
あなたが生きててくれなきゃ、意味がないんだよ。
う、ん……?
誰かが呼んでる。あたし、死なないですんだのかな。
感覚も戻ってきてるし、もう起きれる、みたい。
最初に会うの、誰かな……。
横たわる少女の瞳が開く。
ぼやけた焦点が次第に定まっていき……地下道の薄暗い天井を捕らえた。
「目が覚めましたか」
頭上から降ってくる声は柔らかく優しい響きの少年の声。側にいたはずの少年のものではないが、彼女にとって聞き覚えはある。
「……サフィ、くん?」
「無理に喋らなくても大丈夫です。まだ痛いところはありますか?」
セレスティアの少年の問いかけに少女はゆっくりと首を横に振った。そして、まだぎこちなくしか動かない身体で起き上がろうとする。
「ねぇ……ザクス、は?」
「ええ、今お話します。ですから、まだ横になっていてください」
ユノをやんわりと押し留めて、ずりおちたマントをかけなおす。誰のものなのかわからないが、彼女の下に一枚、上にかけられているものが一枚、外套が置かれていた。
少女が改めて横になると、サフィエルは話し始める。
「まず、ここは地下道の中央部になります。私達は最初から中央部を探索して、それから外周部へと向かおうと考えて先にここへ来ました」
言葉を紡ぎながら、少年の手には光が宿る。僧侶魔法がもたらす癒しの力が少女へと注ぎ込まれていく。
「目的の物はここで発見できました。そして戻ろうと階層を繋ぐゲートへ近付いた時、貴女を抱えたザクスと遭遇しました」
ザクスの名を聞いて再び起き上がろうとする少女を、予測していた少年がやんわりとたしなめる。
「彼は流石に何箇所か怪我を負っていましたが、もう治しました。しかし、貴女は麻痺を解除する魔法をかけてもなかなか目を覚まさなかったのです」
「……心配、かけちゃった、かな」
少女の不安そうな声。普段の元気一杯な表情から見れば、あまりにも弱弱しくみえる姿だった。
「そうですね。心配なさっていました」
少しでも安心させる為か、少年は僅かに微笑んでみせる。
「貴女の体と、自分のせいで貴女が課題をこなせなくなってしまうのではないかと」
「……え?」
少女が思っていたのはこの少年に対して心配をかけてしまったということ。フェルパーの少年は怒りこそすれ、心配などするとは思っていなかった。
そんな思いを知ってか知らずか、セレスティアの少年は優しく告げる。
「ザクスはずっと貴女のことを気にしていたのですよ。ですから、貴女の体調が快方に向かったことがわかると、このフロアの探索へ」
「そう、なの?」
「ええ。貴女が動けるようになったら、すぐ学園へ戻り、課題が達成できるようにと。一人では大変でしょうから、私と同行していたユーシェルについていただきました」
「……怒って、なかった?」
「はい」
ユノにとって驚きばかりが続いていた。それはとても嬉しいもので。
「よかったぁ……」
にっこり笑った少女の瞳から、涙が零れ落ちた。
その頭を軽く撫でた少年が、ふと正面を指し示す。
「……ほら、戻ってきたようですよ」
少女が頭をめぐらせて見ると、そこにはフェルパーの少年とフェアリーの少年が並んで歩いてくる姿。その手には雪見草の花冠が見えている。
ザクスはユノが目覚めていることに気付くと、一瞬目を見開いた。
そして変わらぬ歩調で彼女の側に近付き膝を突くと、花冠をそっとその胸の上に置く。
「……今、戻った」
いつもと変わらない低く穏やかな声に、ユノは精一杯の笑顔を浮かべて答える。
「……おかえりなさい!」
Fine.