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2010.6.25   【橙】

Novel stage / original:Abyss of Time

《イレイサー》


 


 

 イレイサーとは異界からの侵略者である。
 影に紛れてこの世界へ干渉し、生物、主に人をそのままでは強すぎる生命の輝きを様々な方法で貶めて自らの世界へと引きずり込む。
 引きずり込まれた生物は、世界における"存在"を消される。生物を覚えている者はいなくなり、記録は風化する。
 イレイサーの目的はこの世界の表世界へ存在できるだけの力を手に入れること。影に依ることなく、肉体を持った存在として世界への干渉を開始し、表裏を入れ替える。
 抹消された存在が本来存在する為の力を、利用して。

「……それで、どうしてこの話題からその話になるんですか?」
 心さんが呆れたように言った。
「いや、これを見て思ったのさ」
 紫さんは僕が持っていた橙を手に取る。正月の時に飾った鏡餅が忙しかったせいで棚の奥へと追いやられ、発見したのが部屋の掃除が終わった今日というわけだ。
「イレイサーとは心やすずなも知っている通り、人の存在を消す。そしてそれは決してつい最近起こったものではない、結構長いものだっていうのは、俗に魔物使いと呼ばれる類の対イレイサーの者達がいることでわかるだろう」
 魔物使いとは長い時間をかけてイレイサーを説得し続けた者達のこと。イレイサーも一枚岩ではないようで、強制的に存在する力を奪い取るだけをよしとしない存在もあるようだ。そういう者達は同胞を狩るのに手を貸す。
「はい」
「確かにそうですね」
「ところが、だ」
 橙をお手玉のように放り投げながら紫さんは言う。
「イレイサーが表に出たがる理由を誰も知らない。分裂するのか、代を重ねるのかといった発生方法もよくわかっていない。私達がイレイサーについて知っているのはほんの表面の僅かな部分に過ぎないのだ」
 不思議だろう、といいながら、紫さんは楽しそうににやっと笑う。
「まあ、確かにそうですけれど」
 応える心さんは戸惑っていた。
「それがどうかしたのですか?」
「おかしいだろう」
 紫さんは断言した。
「何故誰も調べない? 何故皆イレイサーのことが分かった気になっている?」
「わかっているからではないのですか」
 僕は首を傾げてそのまま返した。すると、紫さんは大きく頷く。
「そう。"誰か"は知っているんだ……私達が知らないだけで」
「けれど、隠してどうするんですか?」
 当然の疑問は心さんから提示された。
「わからん。その誰かさんには意味があることなのかもしれん」
 そう紫さんは言うと、ぱしっと空中から落ちてきた橙を受けとめる。
「被害を増やしている時点で、私は許せないがな」
 その笑みはさながら肉食獣が獲物を前にしたときの笑み。
 紫さんは、笑ってはいるが怒っていた。

「ところで、何故急にそんなことを」
「いやほんの冗談だが」
「あなたって人は……っ!」


 Fine.


 

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