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2010.6.21 【車】
Novel stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《Speed!》
ぎゅきいいいいいいぃっ!
エスティマブルを源に持つミニバンがリアタイヤを滑らせて黒い跡を残す。
フロントガラスの向こう、ほぼ他に通る車もない峠の道にある僕達以外の車。
青白いボディのスポーツカーが煽るようにエンジンを吹かしている。
「菘、あまり、無茶は」
助手席でシートベルトだけでなく扉の上部の持ち手にも掴まりながら、和が途切れ途切れに何かを言おうとしているが僕はぴしゃりと止める。
「いいから和はきっちり狙って! あと喋ると舌噛むよ!」
知識としてはしっかりインプットされているが、僕自身は運転にそれ程慣れていない。単純な回数が少ないのだ。
咄嗟に逃げたイレイサーを追うのに飛び乗ったはいいが、位置の関係で運転することになったのは痛い。射撃を含む遠距離攻撃は、どちらかといえば僕の得意分野にあたるからだ。
「絶対向こう遊んでる。今のうちに片付けないと追いつけなくなるよっ!」
「わかっては、いるがっ」
揺れのひどい車内から何とか空に向かって指笛を鳴らす。
ぴぃーっと響いた音に、前方のイレイサーと同じ色の鳥が舞い降りる。
「まだ待ってよ……」
僕はタイミングを待つ。
長い峠の下り道。上手く曲がり角に差し掛かり、速度が僅かに落ちる瞬間を狙って。
「今だよ!」
「翔!」
白い猛禽の鳥がその翼を畳み、一気にドリフト体勢へ入った自動車へと突っ込む。
音はないがリアガラス、フロントガラスが割れて粉々になり、ボンネットに大きな穴を開ける。
ぎゅいんぎゅいんぎゅいん!
コントロールを失ったスポーツカーは道路に幾筋ものタイヤ跡を残しながら、ぐるぐると道路上を回転し始める。
もちろん。
その後ろについているのは僕達のミニバン。
「和、しっかり掴まっててよ!」
「ぐ……っ!?」
眼前に迫った回転するイレイサー。僕は思いっきりハンドルを切る準備をして、回転の速度や半径を見極める。
相対距離は短い。
「……いけっ!」
交差する瞬間、一気にアクセルを踏み込む。
一瞬平行になる二台の車体。向こうの車体が回転を始める前に、こちらもハンドルを切り始める。
きぃいいいいいいいぃいぃぃっ!
耳障りな音を立てて、二台の車はアスファストとの摩擦でそのスピードを落としていった。僕達は振り返るような形。向こうは一回転した後、崖に突っ込んで漸く止まった。
「……ふぅ。こーんなものかな」
スポーツカーが輪郭を失い、次第に夜の冷たい空気へと溶けていくのを僕は見送た。
車内で大きく伸びをすると、一応緊張していた肩肘が少しほぐれる。
「大変だけど、結構すっきりした。って、どうしたの、和?」
ふと、隣の助手席を見ると、和がダッシュボードに突っ伏している。
「和ー?」
「……もう、お前には運転させない」
改めて声をかけると、和は酷く疲れた表情ではぁと溜息を一つ、大きくついた。
Fine.