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2010.6.28 【軍】
Novel stage / original:Absoetia
《戦火の気配》
アブソエティア国、王城。
勉強などに使われる王族の私室のある棟へ向かうラートとキルシェを壮年の男性が呼び止めた。
「少々よろしいか」
「オフィツィーア将軍」
五十代後半だろうか。筋肉質の体が窮屈そうに立派な軍服を纏い、胸元には一瞬で数えられないほど勲章が留められている。
この国の平和を支える柱の一人に数えられるシュヴェールト・ゲネラール・フォン・オフィツィーア将軍。教材を持って振り返った理師の養父でもある。
「軍議のお帰りですか」
「ああ。キルシェ殿、お話が」
振り返ったラートが応じると、男性は大きく頷いて白の青年へ視線を流す。
同じタイミングで騎士の青年を見た理師は、持っていた資料を相手へと渡した。
「ラート、すみませんが王子へ先にこれを読んでいるようにと」
「……わかった。将軍、失礼いたします」
「すまない。話が終わり次第、そちらへ」
数冊の本と紙束を受け取った青年は一礼し、本来向かっていた方向へと歩き出す。途中で振り返ると、どこかぎこちなく話す将軍と軽く俯いて聞いているその養子。
家族となってからもう十数年は経過しているが、お互いに接し方がわからず離れていた為に仲は今でもぎこちない。本来仕える対象が急に自分の子供になったのだから、無理もないのだが。
親友の複雑な環境を思いながら、騎士の青年は王族が生活している棟へと歩き始めた。
結局遅れたのは十数分。
白の青年は何事もなかったように帝王学の講義を始め、様子も普段と変わりなかった。
しかし講義の時間が終了し、王子が武術の稽古を行う為に移動するさなか、彼はラートへと話しかけた。話しかけたことすら気取られないほどごく自然に。
「……貴方には人事ではありませんから、話しておきます」
ラートは言葉にキルシェの方を向くが、彼の視線は変わらず正面を向いたまま。その状態で白の理師は告げる。
「王子の初陣が、近い」
平和な時間を壊す足音は、一歩、また一歩と近付いていた。
Fine.