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2010.5.6 【主】
Novel stage / original
《ブルーパール》
古より伝えられていた。
金の入り江には、主が住んでいるのだと。
それは人の姿ではなく、一度見た者は二度と入り江から帰ることが出来ないという。
けれど。
秘められれば秘められるほど、人の好奇心は駆り立てられる……。
大海に面した小さな漁港。男達が漁へ出ている長閑な時間。
「アルミナ、遅くならないうちに帰ってくるのよ!」
「はぁい。ママ」
浜辺の側にある一軒の家から、少女が駆け出してくる。慌てて追いかけて出てきたのは料理の途中と思しき女性。
「それと、入り江には絶対近付いてはダメよ!」
「行ってきまーす!」
注意を聞いてか聞かずか、大きな麦藁帽子と白いワンピースの少女は白い砂浜に足跡を残していく。
ぱたぱたと走っていく姿は村人達も見慣れたもので、互いに挨拶を交わす。
少女は暫くいつもの遊び場である海辺へと行く……ように見せかけて、大きな岩場を回りこんだ。これで彼女の姿は海からでもない限り見ることが出来ない。
それでも身長に周囲を見回すと、彼女は小さな岩を辿っていく。切り立った崖の向こう側へ。
(きっと、何か宝物があるのよ)
岩肌に掴まりながら必死に。
(一人で見つけて、びっくりさせてあげるの)
石は段々その数を減らすが、子供でも飛べないほどではない。
日が傾いていく中、ゆっくり時間をかけて。
ついに、彼女は崖の中の入り江へと足を踏み入れた。
「や、やったぁっ!」
ぴょん、と嬉しそうにジャンプ。そして早速浜辺を探索し始めた。
「砂がとっても白い……形もちょっと変わってる」
形に違う砂浜の砂。村の浜辺には流れ着かなかった漂着物。綺麗な形を留めた貝殻。
少女は目を輝かせながら持ってきた袋に、持って帰る物を吟味して詰め込む。
「ママ、喜んでくれるかな」
うふふ、と自分自身も喜びながら彼女は袋の紐を長く伸ばし、戻る時邪魔にならないよう肩に掛けた。
へ戻ろうと海を見ると、陽が既に水平線へ沈もうとしている。
「いけない。早く戻らなきゃ!」
そして最初の岩に足をかけた所で、きらん、と光るものが目に映る。
「きゃ! 何?」
光は海の中から生じている。
「綺麗……」
もう戻らなくてはいけない。けれど、その輝きはあまりにも彼女を惹きつけた。
「ちょっとだけなら、いいかな」
少女も伊達に漁村の子供ではない。泳ぎはかなり得意だ。
彼女は袋を岩の上に置くと、しゃがんで足を入れる。ちゃぷちゃぷと指先を遊ばせてみれば、透き通った海の水は動作を視覚に伝える。
そして。
「……えいっ」
思い切って、飛び込んだ。
途端に少女の身体が海の中へと沈み込む。すぐ側に浜辺があるとは思えないほど、その場所は深かった。
(うそっ!?)
更に不運なことに、見えない部分、海面から少し下の方に早い流れがあった。いくら泳ぎが得意とはいえ、小柄な身体はあっという間に攫われてしまう。
「だれ……っ……た…………あぁ……っ!」
輝きの正体も掴めぬまま小さな身体は波間へと消えていく。
彼女が最期に見たものは、海の底に沈む穏やかな輝きを放つ真球。
あとに残ったのは、夕陽に染まった黄金色の浜辺。
古より伝えられていた。
金の入り江には、主が住んでいるのだと。
それは人の姿ではなく、一度見た者は二度と入り江から帰ることが出来ないという。
それは。
秘められるには秘められるだけの、理由があるのだ。
Fine.