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2010.5.8   【網】

Novel stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~

《スナイピング》


 


 

 午後十時――
『周囲一帯の『結界』による隔離完了。複次元ソナーによる照合の結果、イレイサー五体を確認』
 和のヘッドホンへ紫さんの通信が入る。地域の封鎖が完了した知らせだ。
「了解」
 短く返した和は翔を空へ飛ばせ、拳銃を構える。
「菘」
「準備は完了。いつでもいけるよ」
 僕はゴーグルを目の前に下ろして真っ直ぐに伸ばした腕を変形させる。その形が普段と違うのは今日は一時的に通常のバレット以外にも特殊なバレットを持ち込んでいる為だ。
 紫さんが合図をかけた。

『作戦、開始するぞ』

「翔、行くぞ」
 和の掛け声に高い笛のような鳴き声がぴぃいいいいぃっと響く。
 途端、夜の空に動きが見えた。
 雲ひとつなく晴れ渡る星空と大地の間に半径一メートルほどの円盤が何枚も浮かび上がる。元々存在していたが、透明で見えなかったのだ。
 だが、今は違う。仄白く光る円盤が高速で回転して、新しい獲物を求めて動き始めた。
「現在出現数は三体。気をつけてね、和」
「ああ」
 僕の問に答えた和の拳銃が早速火を噴いた。
 軽やかに響く銃声は円盤の中央を的確に捉えて弾き飛ばす。それはイレイサーの回転方向を変えるが倒すには至らない。弾かれた内の一体へ翔が体当たりで追撃して、一つを消滅させる。
『一体消失を確認した』
「和、背後に一体回られたっ!」
 紫さんの報告と僕の警告が同時に飛び交う。残り二体の突進を回避した和の背後に別の円盤が現れたのだ。姿を見せた直後に僕が数発打ち込むが、和への攻撃を止めさせた代わりに弾は回避される。
「菘、助かる」
「相棒だし、当然でしょ? まだ来るよ!」
 そのまま僕は弾をばらまいて相手の動きを制限する。
 隙を見計らって和が挟み撃ちから離脱し、追いかけてくるイレイサーへ翔が体当たり。半透明の翼が大きく羽ばたくと風が巻き起こって浮遊中の円盤との距離を確保する。
 そして黒のコートを翻した和が動きを弱められた所へ連射。
『二体消失を確認。折り返し地点過ぎたぞ』
 穴だらけになった円盤が消えていく。
「でも、まだ一体が見えないよ。サーチお願い!」
 見えている敵へ光弾を撃ち込みながら、僕はゴーグルを通して周囲を見回した。
『了解だ』
 目の前の透明なレンズ部分に現在探査が進行中である旨が表示される。
 ぴぃいいいいいいいぃぃっ。
 翔の鳴き声が再び響き渡る。
 映し出される風景の中で、放射線状に広がっていく音波の屈折率がおかしい所。
「和! 翔の右隣のビル、三階のど真ん中の窓の前にいるっ!」
「わかった。行け、翔」
 残っている円盤へ銃弾を叩き込み、和は翔をその場から離脱させる。
『残り一体だ』
 そして僕が指示した窓ガラスへ向かって突っ込ませた。
 ぴぃいいぃいいいぃぃっ。
 翔が近くで響かせた音波もぶつかり、堪らず円盤が擬態をやめる。そして、高速で回転し始めると空へ急上昇する。
 ここまでくると和の拳銃では射程外。翔では高速で移動する円盤に追いつけない。
「……菘」
「りょーかいっ!」
 僕は腕を真っ直ぐに伸ばす。
「モード〈アザゼル〉から〈サマエル〉へ」
 今まではほぼ手首より先が丸くなっていただけだった変形が腕全体にまで広がる。重心に当る部分が細く長く伸びる。
『スコープ、サーチからレンジ表示へ移行する』
 ゴーグルの表示がライフルなどのスコープと同じ表示になる。
「ロックオン完了」
 未だに『結界』の出口を求めて空高く上がる円盤に向かって。
「いっけぇっ!」
 僕の細く伸びた腕から楕円形の光の弾が発射された。
 白く長い尾を引いた光弾は円盤を上回るスピードで追撃し。
 ぱぁん。
 軽くはじけた。
『……イレイサーの反応消失。クリアだ。二人ともお疲れ様』
「はーい。紫さんもお疲れ様ー」
「支援、助かった」
 軽く返した僕を、和が数十メートルも下から見上げている。
 そう、僕は和の側にいたわけじゃない。離れたビルの屋上でずっと援護していた。
 あの円盤は警戒心が強かった為、僕と一緒では出てきてくれなかったのだ。結果として和を囮に使うようなことになってしまったが、被害が広がる前に抑える方法は他になかった。
 向こうからはほとんど見えないだろうに、それでも視線を向ける和へイヤホンマイクで返事を返した。
「言ったでしょ? 僕は和の相棒だって!」


 Fine.


 

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