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2010.5.5 【小】
Novel stage / original:Two Little Stars
《おやすみ》
ちゃんちゃんちゃんちゃーんちゃちゃーん……。
あるショパンの有名なピアノソナタが流れ、スクリーンの向こう側に見慣れた女性の姿が映る。
『伊藤先生、こんばんは! 随分とお疲れのようですね~』
「ああ……」
答える博は疲弊した表情を浮かべ、椅子へ凭れ掛っていた。何しろ彼はここ数日間、動物園、遊園地、牧場と様々な場所へと連れまわされていたのだ。
『あはは。お疲れ様でした!』
木野崎美優は心底おかしそうに腹を抱えて、デスクの前で笑っている。
憮然とする博に失礼しました、と元通り机の前に座ると言葉を繋いだ。
『でもちびちゃんたちは喜んだでしょう?』
そう言われると男性は憮然とした表情を僅かに緩め、呟いた。
「まあ、な……」
けしかけた張本人はその様子をメモを取りながら見ている。
『わざわざ締め切りずらしてまでお休み取った甲斐がありましたねー。小さい子はやっぱりいっぱい遊ばなきゃ駄目ですよ』
「普段から元気が有り余ってるんだけどな」
しかし、話しながらキーボードを叩いていた手を止める。
「まあ……悪くは、なかったけどな」
『すごいはやいにゃ~!?』
『目がぐるぐるするにゃ~!?』
『あ、トラにゃ! 二人いるにゃ!』
『仲よさそうにゃ~。ネコとステラみたいに双子かにゃ?』
『にゃ~。もっふもふにゃ~』
『気持ちいいにゃ~。ネコの耳みたいにゃ~』
ネコの仔達はどこへ行ってもはしゃぎまわり、楽しそうに暴れ……遊んでいた。外見よりも幼い双子はどこも行った事はなかったらしく、見る物全てに目を輝かせていた。
そしてその笑顔を見ていると、引っ張りまわされ疲れていても文句を言う気にはなれなくなってしまうのだ。
ここ数日を思い出していると、ヘッドホンからクスクスという笑い声が聞こえる。
美優だった。
「……なんだ」
『先生、もうすっかりお父さんの顔ですよ』
「は?」
画面の向こうの顔が優しく微笑んでいた。
『ちびちゃん達が可愛いんでしょう。騒がしくないと寂しく感じたりしてませんか?』
博はその表情に戸惑い、沈黙する。彼女の言っていることは先程感じたままの感情だ。
「……そろそろ執筆に入る」
『あ、もうお休み終わっちゃいましたものね。それじゃ先生、また。ちびちゃん達にはおやすみなさい』
ひらひらと手を振って美優が映っていたウィンドウが消える。
夜も深まり、とっくに眠りへ双子の寝息だけが聞こえる家の中で、再びキーボードを叩く音が聞こえ始めた。
Fine.