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2010.5.2 【変】
Novel stage / original:Abyss of Time ~ After the Nightmare ~
《変えてはいけないもの》
平日。昼食も終わって眠気が起こる頃。
「ねー。和、そろそろパトロールのお時間ですよー」
僕は仮眠室で和を叩き起こす。
昨日の出動が結局宋朝までかかってしまい、家が遠い和は面倒くさがってそのまま仮眠室で眠ってしまったのだ。
ここのところイレイサー関連の出動が多く、疲労が蓄積されているのは僕にもわかっている。
「のーどーかーっ」
大きく揺さ振るが反応がない。せいぜい寝返りを打つ程度だ。
「もう」
それでも強くは言えない。僕と違って彼は生身だから。
「じゃ、行ってくるからね」
和に毛布を掛けなおして、仮眠室の扉を閉めて歩き始めた。
僕はゆっくりと歩道を歩いていた。春の風がとてもあたたかくて気持ちいい。
普段なら和の車で流す道路も、歩いてみるとまた風景が違う。今、僕の脇を走っていく赤や黒のランドセルなんて普段なら気にしないだろう。
「やっぱり、いいよね。日常って」
ここのところ戦いが続いていたせいで余計にそう考える。
もっとも、正確にはイレイサーの被害者が出てもこの平穏は崩れない。
ただ、襲われた誰かが、いなくなるだけ。
肉親すらもその記憶を失い、あらゆる存在を示す証拠がなくなる。
「これは、変わっちゃ、失っちゃいけない、ものなんだ」
世界や社会としては走り回る子供一人、アタッシェケースを持つサラリーマン一人、いなくなったところで何も変わらないのかもしれない。
けれど、だからといって放置するわけにはいかない。
死んでいい人なんて、いなくなっていい人なんて、いるわけがない。
「……うん。頑張ろっ!」
僕のお仕事なんてなくなっちゃうくらい頑張って、誰も傷つかないように。
僕は腕を振り回して、スキップしながら歩いていった。いこうとした。
けれど、その前に後ろから両肩を捕まれる。
「ふぇ?」
「勝手に、行くな」
寝ていたはずの和が後ろに立っていた。頭は寝癖がついているし、コートもボタンが留められていない。
よくよく見てみると、少し息が切れている。
「どうしたの、和。疲れてるんだったら寝ててよかったのに」
「言っただろう。勝手に、一人で行くな」
ほとんど散歩のようなものなのに、お疲れの刑事さんは妙に焦っていた。
「……心配した?」
ふと思いついた理由を尋ねると、和は目を合わせずに道路を先へ歩いていった。
「行くぞ」
「あ、ちょっと待ってって!」
無言の肯定に内心で笑いながら、僕はその左腕に飛びついた。
変わらないでいて欲しい日常。これもその一つ。
Fine.