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2010.4.30 【梅】
Novel stage / original
《異国へ》
わらわには記憶に残る色がある。
「ほら、杠。綺麗だろう?」
父上が広げて見せてくれた大きな布。圧された金箔も鮮やかな紅梅色の反物。
それは遠い異国、母上の生まれた遥か東の国から運ばれてきた贈り物だった。
「見たことのない赤じゃ……父上、とても美しいのじゃ!」
幼いわらわには、花とも、壁とも、鉄とも違う見たことのない美しい赤に魅入られていた。
喜んでいるわらわを見て、父上も嬉しそうな笑みを浮かべた。
反物を少し引き出し、側で微笑んで立っていた母上の肩に掛ける。
「まあ……」
「どうかな」
微笑んだまま戸惑う母上。着ている黒味を帯びた赤い着物と紅梅色の反物は両方の赤を強調して引き立たせている。
「母上、とっても綺麗なのじゃ!」
「ふふ。ありがとう、杠」
まだ小さなわらわを母上が抱え上げる。いつも着物に焚き染めてある香が優しく鼻をくすぐる。
そして反物を元通りに畳んだ父上がわらわと母上を抱きしめた。
「お前も杠も、綺麗で可愛い大好きな俺の家族だよ」
わらわは母上と父上を見上げて、笑顔で答える。
「わらわも、父上と母上が大好きじゃ!」
あれから数年。異国へ繋がる連絡船はその姿を見せなくなった。
東の国へと繋がる海流が変わり、険しい陸路を行くしか交流手段はなくなってしまったのだ。
難解な道しかないという実状は自然と交流を薄れさせる。
そしてその間に、わらわたちの国は別の国との戦争に入った。現在は納まっているとはいえ、国王はまだ戦いを続けるつもりがあるという。
わらわは皆を守る為に戦うつもりだった。けれど、父上はわらわが軍に入ることをよしとしなかった。
父上と母上を守ることが出来ないなら。
わらわは……父上と母上の笑顔が見たい。
船の帆を上げる。女神のヘッドフィギュアが海の彼方を見つめる。
仲間達が甲板でわらわの号令を待っている。
「さあ、わらわと共に海へ行こうぞ!」
目指すは東の国。母上の生まれた国。
Fine.