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2010.4.25 【鳩】
Novel stage / original:Two Little Stars
《おでかけ》
街中の駐車場。
「おい、いくぞ。」
主である伊藤博は車の中へと声をかける。
今日もまた届けなければいけない書類があるため街に来た、のだが。
「うにゃあ。飼い主待つにゃ!」
「荷物が引っかかってるにゃ~」
この双子を置いていくと何をやらかすかわからない為、せめて目の届く範囲へ置いておくべく連れて来ていた。
「仕方ないな……」
博は自動車のエンジンをとめてから後ろを覗く。アンテールが肩にかけていたポシェットを座席に引っ掛けてしまったらしい。
「ステラ、お前は先に車から降りてろ。アンテールは動くな。今取ってやるから」
「はいにゃ!」
「ごめんにゃ~っ」
元気よく返事をして降りたステラと入れ替わりに、博は後部座席へ乗り込んだ。涙目のアンテールをなだめながら、座席に引っかかったストラップを外す。
「ほら。外れた」
「ヒロシありがとうにゃ!」
三角の白い耳をぴこぴこ動かしながら、ネコの仔達は飛び跳ねて歩いていく。いつぞや大量にいろいろ買った中からステラは若草色のワンピースと黄色いリュック、アンテールは赤いTシャツと象牙色の短パンにクリーム色のポシェットを身に着けている。靴はお揃いの白いスニーカーだ。
「やれやれ。元気だな」
博は自動車にロックをかけて、二人の後をゆっくり追いかけていた。が、慌てて追いつく。
「アンテール見るにゃ! 鳩にゃ!」
「ステラ鳩にゃ! 美味しそうにゃ!」
「食いたそうに見るなお前ら!」
公園で地面をつついている鳩に目を輝かすネコの仔達を止める為に。
博が向かったのはとある大きな出版社。
「高いビルにゃ」
「新しそうにゃ」
「去年、立て替えたばかりらしいからな」
ビルの先端をぼぉっと見上げる双子を引き連れて、青年は中へと入っていった。
受付嬢へここの会社の身分証明書を見せながら言った。
「木野崎さんを呼んでくれないか?」
「はい。かしこまりました」
そつなくお辞儀をする彼女へ頼んでから、彼は双子をつれてロビーの椅子に座らせた。一応来る前には言い聞かせては置いたが、改めて言っておく。
「いいか。暫く俺は話し合いがあるから待ってろよ。一応あいつについててもらうから」
すると、双子はぷうっと頬を膨らませた。
「ネコは飼い主と一緒にいたいにゃ……」
「ネコも一緒がいいにゃ……」
どうみても不満そうだが、これでも納まったほうだ。
「言ったろ。お前ら静かにしてられないだろうが。遊びに連れて行ってもらって来い」
今だ納得しない双子へ呆れながら博が言うが、ネコの仔達はじーっと見返す。
すると彼の背後から女性の笑い声がした。
「よーっぽど懐かれたんですね、伊藤先生!」
きゃらきゃら笑っているのは綺麗にスーツを着こなしたセミロングの女性。
「木野崎さん」
「はーい。先生、話はちゃーんと聞いてましたよ」
驚いて声をかける青年に笑いかけながら、女性は回り込んで双子の座っている椅子の横へしゃがんだ。
「ステラちゃんとアンテールくんね?」
名前を呼ばれてネコの仔達が反応した。
「ネコのこと知ってるにゃ?」
「飼い主のことも知ってるにゃ?」
自分たちのことを知っている新しい存在に興味津々らしい。
「ええ。伊藤先生から教えてもらいましたからね。私は木野崎美優。美優って呼んでね」
「ミユウ?」
「ミユウ、にゃ?」
美優がそっと手を差し出すとまずステラがおずおずと手を伸ばした。
きゅっと彼女達が手を軽く握ると、ぴくっと白い耳が立った。次に握手したアンテールも同じように緊張している。
「では木野崎さん、暫くお願いします」
「私は構いませんけど、ネコちゃん達は納得してくれたんですか?」
「悪いけど、もう時間がないんです」
ロビーにかけられた時計の長針は十一を指している。あと五分。
「じゃ、ステラ、アンテール。あんまりわがまま言うなよ」
博は持ってきた鞄を左手に抱えてエレベーターへと向かう。
「にゃ……」
「なぅ……」
双子は寂しそうに一声鳴いて、けれど追いかけることはしなかった。
代わりに二対の目線は博がエレベーターの中、金属の分厚い扉に遮られるまで追いかけていた。
その様子を見た美優は微笑んでネコの仔達の頭を撫でた。
「ネコちゃん達は先生のことが本当に好きなのね。大丈夫。一時間もすれば終わっちゃうようなものだから、待ってあげて」
「にゃあ。ネコは、我慢するにゃ」
「ネコも我慢するにゃ。だって、約束したにゃ」
ぎゅっと小さな手を握り締めて泣きそうな目をしている双子のネコ。
美優は子供達の手を取ると立ち上がらせた。
「さあ、ここに座っていても先生は戻ってこないわ。どうせなら何かびっくりさせることでも考えましょう!」
戸惑うステラとアンテールを引っ張りながら女性は元気よく出版社を出発していった。
出版社の上のフロア。
窓から女性と子供達が出て行くのを見て、博は心中で嘆息する。
「なんとか、行ったか……」
Fine.