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2010.4.21 【化】
Novel stage / original:Absoetia
《埋没》
アブソエティア国、カンプ地方。
五年ほど前に国の内情が悪化、資金を援助していた隣接国であるアブソエティアへ統合された。
民衆の信頼を失った王家は排除され、現在はアブソエティア中央から派遣された領主がカンプ地方を治めている。
そして今、第一王子テルマが避暑を兼ねた視察に来ていた。
「この地方は果樹栽培が盛んなのですよ。先日お召し上がりいただいた果実は、こちらからの献上品です」
「ああ、あれは果肉がぎゅっと詰まっていてとても美味しかった」
広大な果樹園が広がる台地。果樹園の向こうには元王城である領主の館がはっきりと見えていた。
黒衣の青年が王子を先導しながら各地の解説を加えていく。
無論領主からの案内役もついているが、道はともかく直接話すことになる解説ではどうしても焦り気味になる。そのフォローも兼ねて黒衣の青年が共についていた。
「こちらでは植物油も作っております」
「他の地方でも作っておりますが、カンプ地方は香りが高いのが特徴ですね」
「確か公爵夫人がお好きだったな。少しお送りしようか」
「こ、光栄です!」
案内人の少女の顔が真っ赤に染まり、頭を下げる。微笑みを浮かべるテルマ王子。
その二人を見守る同級の青年達は僅かに遡った風景を思い出した。
まだカンプ王国だった頃、この国は不安に支配されていた。
よくあるお家騒動。頼りない兄より優秀な弟を押す臣下によって王政を司る者達は真っ二つに割れた。
それはそれぞれに味方する貴族を分裂させ、更にその配下層をばらばらにする。
人が人を信じられなくなる。
豊かに実る果樹園で何故か腐った果実の香りがする。
そんな、国だった。
そして内乱が起こった。
早くに情報を掴んでいたアブソエティア国は即座に小軍と交渉用の人材を派遣。内乱を収めたが、後継者である兄弟は抗争中に亡くなっていた。
結局事態を収める為に行った彼らが後処理に追われることとなるが、その代わりに外交交渉によりカンプはアブソエティアに統合された。
為政者が変わり、政情の不安が取り除かれた。
ほんの数年前の話。だが目の前の少女だけではなく果樹園で働いている人々も、過去の出来事などなかった様に笑っていられる。
「……いい事だな」
騎士は何気なく呟く。
「囚われるくらいなら、風化させてしまったほうがいい」
「けれど……誰も覚えていなければまた繰り返します」
黒衣の青年がゆるゆると首を振る。
「覚えている。俺達がな」
その方向を見ていないにも関わらずラートは即座に応えた。予測していたように。
「それで犠牲が出なければいいのですが」
キルシェもまた予測していたのか、一言応えると距離が離れつつあった王子達の方へ歩いていく。そろそろ次の場所に移る時間だ。
「出させない。その為に来たんだろう……あの時も、今も」
その背に一言かけて、騎士の青年も彼らに続いた。
Fine.