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2010.4.24 【士】
Novel stage / original:Abyss of Time
《ささやかな夢》
夕食も終わって、TVはゴールデンタイムに入っていた。
「心さん、何を勉強していらっしゃるのですか?」
いつもの『久遠の薔薇』の研究所ではなく、心さんが借りているマンションの部屋。
紫さんが出張の為、またここに預けられていた僕は、心さんが読んでいる本を目に留めた。
ノートに何かをメモしながら開いている冊子の表紙は『保育士試験対策講座』。
「うん、ちょっとね」
心さんは苦笑しながら教本にしおりを挟む。
「つまらないかしら。何か遊びましょうか」
「いえ」
僕は流れているTV画面より、心さんの読んでいる本の方に興味があった。紫さんでは持っていないような本ばかり。
それは全て保育士の資格に関係するものだった。
「心さんは資格を取るのですか?」
「そうね。取りたいと思ってるわ」
心さんはそう言うが、表情は悲しそうだった。
「でも私は人造人間で、それも製造者がはっきりしていないから多分無理ね。戦闘型でもあるし」
それでも諭すように教えてくれた。
人造人間は所謂"物"のために人権などはない。どんなに人間へ近付いても、人間と同等の資格を取ることはできない。ただし、一部の目的に特化した人造人間には特別に同等の資格が与えられる。
例えば保育士なら子供の保育用に作られた人造人間はその習熟度を表す為に取得を許可されている。その際は製造者が申告することになっている。
「……すずなくんは、なりたいものとかあるのかしら」
心さんが、ふと思いついたように僕へ尋ねた。
僕は首を傾げた。
「僕はイレーサー撃破用の人造人間ですから。戦闘能力の向上が課題です」
「そう。そうよね」
ふふふ、と微笑みながら心さんが立ち上がる。
「まだ眠たくないわよね。お茶とココア、どっちがいい?」
「ココアがいいです。僕、自分で入れますから」
「いいのよ。一応お客さんなんだから、座ってて」
僕も立ち上がろうとしたけれど心さんが止める。かちゃかちゃと瓶とスプーンがぶつかる音がした。
「心さんは、どうして保育士になりたいのですか?」
僕の質問に心さんが微笑みながら応えた。
「そうね。私を拾ってくれたのが保育士さんだったからかしら」
二人分のココアを運びながら心さんは話を続けていった。
「私は造られた時の記憶がないのは知っているわね。それでもはじまりはあって、一番最初は保育園で目覚めたの」
ふーっとコップの上を吹いて少し冷ます。息を吹きかけたのが同時で、思わず二人して噴出した。
少し雰囲気が和む。
「話によると、私は保育園の前に倒れていたそうなの。そこを拾われて、まあ、ちょっと事情があって『久遠の薔薇』に引き取られたってこと」
そして心さんはまた教本を開き始めた。
「それがすごく優しくてね……保育士に興味を持ったの」
「そうなんですか。ありがとうございます」
僕は頭を下げる。
「いいのよ」
勉強を始めながら心さんは頷いた。そして最後にこう付け加える。
「すずなくんも興味があるものがあったらどんどん挑戦していってね」
「はい」
僕も頷き返したとき、電話の着信音が鳴った。僕が持っている携帯電話のものだ。
「きっと紫さんからよ」
「はい。失礼します」
遅れると紫さんが怒るので、僕は慌てて電話へ走っていった。
Fine.